論文レビュー

なぜスタートアップでは女性が少ないのか──ダイバーシティ・デットのシグナル

創業時のジェンダー構成が、その後の入社希望者の関心に与える影響を分析。男性偏重の構成が「ダイバーシティ負債」のシグナルとなり女性の参加意欲を下げる悪循環を示す。

2026.05.27 約3分で読めます

論文紹介Engel et al. (2023) · Academy of Management Journal 論文を読む →

なぜスタートアップでは女性が少ないのか?
Engel et al. (2023)

前提

この研究は、創業者ではない「ジョイナー (Joiner)」と呼ばれるスタートアップ従業員が焦点

ジョイナーは、何を見てスタートアップを選んでいるのか?

これまでの研究は「該当スタートアップ創業者の性別」に注目してきたが、結果はまちまち

-> 本研究では、より重要なシグナルとして、スタートアップ企業全体の「現在の男女構成比」に着目

概念:ダイバーシティ負債

技術的負債と同じように、創業初期の不均衡な男女比が放置されると、後から修正するのが困難になるのが「ダイバーシティ負債 (Diversity Debt)」

調査1:フィールドデータ

オランダのスタートアップ向け転職アプリのデータ(8,340人の求職者による約52.2万件の意思決定)を分析

記述統計の結果:
✅全体として、女性は男性よりスタートアップへの応募意欲が低い(約3%低い)

-> この差は、企業の女性比率によって変化

発見1:女性は男女比に敏感

女性は、応募先企業の【女性比率が高いほど】応募意欲が高まる

一方、男性の応募意欲は、企業の男女比に【全く影響されない】

-> 女性(少数派)が企業の男女構成を「働きやすさ」の重要なシグナルとして見ているのに対し、男性(多数派)はそれを気にしていないことを示唆

発見2:ダイバーシティ負債のシグナル

女性比率が極端に低い(0-15%)スタートアップ、つまり「ダイバーシティ負債」を抱えている企業に対して、女性の応募意欲は著しく低下

-> 「負債」のシグナルが、女性を遠ざけていることを示唆

調査2:実験でメカニズムを解明

なぜ女性が「ダイバーシティ負債」を嫌うのか調べるため、米国でジョイナー597人を対象に実験

-> 男女構成比(女性5% vs 40%)だけが異なる架空のスタートアップ企業プロフィールを見せ、応募意欲を調査

発見3:アイデンティティ脅威

実験の結果、ダイバーシティ負債のシグナル(女性5%)は、次のような「アイデンティティ脅威」引き起こすことが判明

「この会社では、女性という性別を理由にステレオタイプに基づく仕事(コーヒーを入れる等)を頼まれるのではないか?」

「非常に男性優位のスタートアップに見えるので、入っても居場所がないと感じるだろう」

こうした不安が、女性の応募意欲を直接的に削いでいた

まとめ

スタートアップの男女比の偏りは、自然には解消されないことを示唆

1. 創業初期の不均衡(ダイバーシティ負債)が生まれる

2. それが女性候補者に「アイデンティティ脅威」を与える

3. 結果、女性が応募を避け、不均衡が再生産される(悪循環)

-> 自社の男女構成が、そのスタートアップの未来の候補者プールを形作っている

初期段階から「ダイバーシティ負債」を抱えない意識的な取り組みが、将来の採用競争力を高める可能性を示唆

Reference: Engel, Y., Lewis, T., Cardon, M. S., & Hentschel, T. (2023). Signaling Diversity Debt: Startup Gender Composition and the Gender Gap in Joiners’ Interest. Academy of Management Journal, 66(5), 1469-1500. doi:10.5465/amj.2021.1197

関連記事

マネジメント・レビューTOP