論文レビュー

インパクト・スタートアップの成否を分ける思考法──社会目標と利益を両立するパラドキシカル・フレーム

ドイツのベンチャー6社を追跡。社会目標と利益を「あれかこれか」で捉えるナローフレームは概念実証で頓挫しやすく、「あれもこれも」のパラドキシカル・フレームが生存・成長を導く。

2026.01.19 約3分で読めます

論文紹介Esau (2025) · Strategic Entrepreneurship Journal

研究背景

気候変動や生物多様性の損失といった「グランド・チャレンジ」に取り組むベンチャー

しかし、社会・環境目標と利益追求の両立は難しく、多くが概念実証(PoC)の段階を超えられない

この研究は、多くのベンチャーが失敗する根本原因を初期段階のビジネスモデル設計プロセスに見出し、その詳細を明らかにしている

-> ドイツの初期段階にあるベンチャー6社(製造、小売配送、ヘルスサービスから各2社)を、2021年11月から2023年3月まで追跡調査

発見1: 創業チームの初期の認知フレームが、その後のビジネスモデル設計の経路を決定づける

🔹ナローフレーム (Narrow Frame):
複雑性を減らすため「あれかこれか (either/or)」で思考。初期は社会福祉か商業目標のどちらかに集中し、後で切り替えようとするが、うまくいかない

🔹パラドキシカルフレーム (Paradoxical Frame):
複数の目標間の緊張を受け入れ「あれもこれも (both/and)」で思考。社会福祉と商業目標を同時に追求

発見2: 「ナローフレーム」経路を辿るベンチャーは、概念実証段階を超えられない傾向

ナローフレームの場合、初期にどちらかの目標に偏り、探索範囲が狭くなり、早期に特定のビジネスモデルにコミットしすぎる

結果として、狭い範囲の探索活動と、ステークホルダーからのフィードバックが不足したまま早期に特定のビジネスモデルにコミット、社会目標と商業目標のバランスを欠いたビジネスモデルが構築される傾向

-> やがて財政的な圧力に直面し、当初の社会・環境目標を犠牲にしたり(ミッション・ドリフト)、あるいは商業的な持続可能性を確保できなくなったりして、最終的に解散に至る (6社中3社が該当)

発見3: 「パラドキシカルフレーム」経路を辿るベンチャーは、実践的な学習を通じて生存・成長

パラドキシカルフレームのチームは、社会目標と商業目標の間の緊張を前提とし、広範な探索と多様なステークホルダーとの対話を通じて、両立の可能性を粘り強く探求

早期に単一のビジネスモデルに固執せず、まず一つの製品やサービスに絞ったシンプルなプロトタイプから着手

顧客との共同創造や実験を繰り返すことで、机上の空論ではない、市場で通用する価値提案を見極めていく

この反復的な学習プロセスを通じて、ビジネスモデルの要素を徐々に統合・最適化し、最終的に社会性と事業性のバランスが取れた、実行可能なビジネスモデルを構築

発見4: 認知フレームはチーム構成で決まり、経験によって変化しうる

チームの認知フレームは、メンバーの価値観の構成に強く影響される

理想主義的なメンバーだけで構成されたチームや、実用主義的なリーダーの力が強いチームは、社会目標か商業目標のどちらかに偏るナローフレームに陥りやすい

一方で、理想主義者と実用主義者が混在し、パワーバランスが取れているチームは、パラドキシカルフレームを形成しやすい

また、メンバーの価値観が同質であっても、個々のメンバーが社会目標と商業目標の両立を当然と考える思考様式を持っている場合も、チームとしてパラドキシカルフレームが形成される傾向

※なお、財政的なプレッシャーなどから、パラドキシカルフレームからナローフレームへと思考が狭まってしまうリスクも存在

まとめ

インパクトと利益を両立するビジネスモデルを構築するには、創業チームがパラドキシカルな認知フレームを持つことが重要

そのためには、理想主義的な視点と実用的な視点の両方をチーム内に持ち、認知的な多様性を確保した上で、忍耐強く実験的なアプローチを取ることが求められる

Esau et al. (2025). Stairway to impact or highway to failure? A cognitive perspective on business model design processes in nascent sustainable ventures. Strategic Entrepreneurship Journal.

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