論文レビュー

「よそ者CEO」は常にDXの切り札か──成功させるリーダーの経験と事業環境

S&P1500社15年分を分析。DXを推進できるのは過去にDX経験を持つアウトサイダーCEO。効果はゴールが明確な急進的変革で最大化し、製造業のような累積的変革では弱まる。

2026.01.14 約3分で読めます

論文紹介Firk et al. (2025) · Strategic Organization

「よそ者CEO」は常にDXの切り札か? 成功させるリーダーの経験と事業環境

研究の背景と問い

多くの企業がDXに取り組むが、その本質は単なるITツールの導入や戦略の変更に留まらない

DXとは、長年培われてきたビジネスモデルや組織の価値観、暗黙のルールといった「制度(institution)」そのものを根底から覆す、困難な変革である

企業内部から起こすことが難しいこの変革を、外部から来たCEOは成し遂げられるのか

問い:
「どのようなアウトサイダーCEOが、どのような状況でDXを推進できるのか?」

キーコンセプト解説:制度的企業家精神

制度的企業家精神とは、既存の制度(業界の常識や社内の暗黙のルール)を打ち破り、新しい制度を創造する行為者を指す

本研究は、DXを推進するアウトサイダーCEOを制度的企業家として捉え、CEOが変革を成功させるための条件を分析

-> 企業の年次報告書の事業内容説明をAI(機械学習)でテキスト分析しDXスコアを算出、S&P 1500社、15年分のパネルデータを分析

発見1:DX経験を持つアウトサイダーCEOがDXを推進する

DX推進と正の相関が見られたのは、過去にDXを経験したことのあるアウトサイダーCEO

DX経験のないアウトサイダーCEOは、DXに対してポジティブな影響を与えなかった(むしろ僅かにネガティブ)

-> 単なる「よそ者」であるだけでは不十分

発見2:変革の「見通し」がCEOの腕力を左右する

DX経験を持つCEOの効果は、企業が直面するDXの性質によって大きく左右される

ビジネスモデル全体がデジタルに置き換わるような急進的(abrupt)な変革(例:新聞業界などのメディア)では、変革のゴールが比較的明確なため、経験者CEOの効果が最大化する

一方で、物理的な製品とデジタルを融合させる「累積的(accumulative)」な変革(例:製造業)では、変革の道のりが複雑でゴールが見えにくいため、その効果は弱まる傾向

発見2の背景:なぜ変革の「見通し」が重要なのか?

論文では、この効果の違いが生まれる理由を、制度的企業家としてCEOに求められる二つの役割、「変革ビジョンの提示」と「社内抵抗への対処」の難易度の違いから説明

メディア業界のような急進的なDXでは、変革後の姿が明確なため、CEOは説得力のあるビジョンを提示しやすく、変革への支持を集めやすい

しかし、製造業のような累積的なDXでは、物理的な製品とデジタルの融合という複雑な課題に直面し、変革の最終形が不透明になりがち

-> 結果、CEOは明確なビジョンを描きにくく、既存事業を守ろうとする「制度の防衛者(institutional defenders)」からの抵抗も強まるため、経験豊富なCEOであっても変革の舵取りが困難に

まとめ

DXという困難な制度変革を成功させるには、単に外部からリーダーを招聘するだけでは不十分

過去のDX経験を通じて、変革の機会と制度的な障壁を的確に認識し、制度的企業家として行動できるCEOが不可欠

リーダーシップが最大限に発揮されるのは、変革のゴールが見通しやすい急進的なDXの局面であり、事業環境に応じたリーダーの選定が極めて重要であることを本研究は示唆

書誌情報

Firk, S., Hennig, J. C., Meier, J., & Wolff, M. (2025). Institutional entrepreneurship and digital transformation: The role of outsider CEOs. Strategic Organization, 23(3), 426–452.

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