起業の動機と法制度──所得層で異なる4つの起業タイプ
「フォーマル/インフォーマル」と「機会型/必要型」を独立軸とし起業を4類型に整理。チリのGEMデータで分析し、インフォーマル起業が高所得層の戦略的「実験場」にもなりうることを示す。
2025.12.22 約3分で読めます
起業の動機と法制度:所得層で異なる4つの起業タイプ
研究の背景:混同されてきた2つの軸
これまで、起業研究では2つの軸がしばしば混同されてきた
(1) フォーマル/インフォーマル:
事業を法的に登録しているか否か
(2) 機会型/必要型:
ビジネスチャンスを求めてか、他に選択肢がなくやむを得ずの起業か
多くの研究は、インフォーマル起業を必要型、フォーマル起業を機会型と結びつける支配的な見方をしてきたが、現実はもっと複雑ではないか?
新提案:起業の4類型フレームワーク
本研究は、この2軸を独立したものとして捉え、起業の形態を4つに分類する新たなフレームワークを提案
インフォーマル × 必要型 (Type 1)
フォーマル × 機会型 (Type 2)
インフォーマル × 機会型 (Type 3)
フォーマル × 必要型 (Type 4)
リサーチクエスチョンとデータ
この4類型への参入は、個人の所得水準によってどう異なるのか?
本研究は、経済学の職業選択理論に基づき、個人の所得水準を、起業しなかった場合に得られたであろう賃金収入、すなわち「機会費用」を測る指標と見なしてこの問いを分析
-> 検証のため、フォーマル/インフォーマルの区別が可能なチリのGEM(Global Entrepreneurship Monitor)データ(2019-2021)を分析
発見1:高所得者層は戦略的な『実験場』としてインフォーマル起業を選ぶ
高所得者層は、低所得者層に比べて「インフォーマル × 機会型」の起業を行う傾向が有意に高かった
-> これは、インフォーマルセクターが単なる貧困の受け皿ではなく、戦略的な事業機会の探索の場であることを示唆する。
発見2:高所得者層も「必要に迫られて」起業する
高所得者層は「フォーマル × 必要型」の起業も低所得者層より行う傾向にあり、このタイプは決して珍しいものではないことが示された
-> 高所得者層における必要性とは、単なる生存のためではなく「望むライフスタイルを維持するため」といった、より高い水準の動機である可能性を示唆
発見3:低所得者の方が必要に迫られて起業
「インフォーマル × 必要型」の起業は、低所得者層で最も多い傾向が見られた
また、「フォーマル × 機会型」は高所得者層に多い
発見4:危機的状況(コロナ禍)の影響
さらに本研究では、コロナ禍という危機的状況が、これらの起業行動にどのような影響を与えたかも分析
低所得者層:
危機時には、インフォーマル×必要型の起業が、職を失うなどより厳しい状況に置かれた人々にとっての安定装置としての役割を強める
高所得者層:
危機時には、特にリスクの高い「お試し」であるインフォーマル×機会型の起業を減らす傾向が顕著である
論文では、より豊かな層は経済状況が好転するまで待つ余裕があるため、危機においては起業全般が魅力の低い選択肢になると考察
→ 危機に対する反応も、所得層と起業タイプによって異なる傾向
まとめ
✅ 起業は「フォーマル/インフォーマル」と「機会型/必要型」の2軸で4類型に分類できる
✅ 高所得者層も、低所得者層に比べて「フォーマル×必要型」の起業を行う傾向
✅ インフォーマルな起業は、低所得者層のセーフティネットであると同時に、高所得者層の戦略的な「実験場」としての役割も持つ
✅ 起業支援策は、この4類型と所得層の違いを考慮した、より精緻な設計が求められることを示唆
書誌情報
Estrin, S., Guerrero, M., & Mickiewicz, T. (2024). A framework for investigating new firm entry: The (limited) overlap between informal-formal and necessity-opportunity entrepreneurship. Journal of Business Venturing, 39(4), 106404.
