論文レビュー

「起業家としての私」が加わると何が起こるか──アイデンティティ構造と採用

人は組織人・家庭人・友人など複数のアイデンティティを持つ。そこに「起業家」というアイデンティティが加わるとき、その構造がどう新しい自己を取り込むかを理論化する。

2026.06.29 約3分で読めます

論文紹介Fenters et al. (2025) · Academy of Management Journal 論文を読む →

「組織の一員としての私」「家庭での私」「友人との私」・・・ここに「起業家としての私」が加わると何が起こる? Fenters et al. (2025)

前提

私たちは、仕事や家庭などで様々な役割を担い、それが自己定義=アイデンティティとなる

人は新しい自分(アイデンティティ)をどのように受け入れるのか?

本研究では、起業する大学教員に焦点

-> 「起業家」という新しいアイデンティティと、研究者 / 教育者 / 配偶者 / 親などのアイデンティティとの関連を分析

分析対象は、米国🇺🇸8大学の教員82名

📝発見1:個人内のアイデンティティ・ネットワーク構造は、主に3つタイプ

深さ / 重複 / 密度 / 範囲という4次元の組み合わせで、3種類の個人内アイデンティ・ネットワーク構造を形成

1️⃣ 階層型 (Hierarchical):
「深さ」が特徴。アイデンティティ間に重要度の階層がある

(例:親としてのアイデンティティが、配偶者よりも重要)

2️⃣ 統合型 (Integrative):
「重複」が特徴。複数のアイデンティティが意味的に重なり合う

(例:優れた研究者であることが、研究結果を通じた良い教育を実現)

3️⃣ ウェブ型 (Web):
「密度」が特徴。多くのアイデンティティが、資源を網目状に相互提供

(例:親として子どもを支援するアイデンティティ ↔ 教育者として学生を支援するアイデンティティ)

📝発見2: アイデンティティ構造のタイプが、起業家アイデンティティ受容法と関連

🔹階層型 と証明パス (Proving path):
より上位のアイデンティティ(例:1番が研究者、次に起業家の場合、研究者)を「証明」する必要性を感じ、起業家アイデンティティは証明のための「導管」

🔹統合型 と全体性パス (Holism path):
複数のアイデンティティを通じて特定の「目的」(例:社会貢献)を達成するために「一貫性」を求める。起業家アイデンティティは目的達成のための「パートナー」

🔹ウェブ型と分配パス (Distributive path):
他のアイデンティティを実践するために必要な資金など「行動資源」を求める。起業家アイデンティティは「実利的機能」を果たすものとなる

📝発見3: 新しいアイデンティティを評価するロジック

🔹階層型 (証明パス) → 競争ロジック:
起業家アイデンティティは、上位レベルのアイデンティティ証明に貢献したか?
(例:「起業家であることにより、私は優れた研究者であると示せているか?」)

🔹統合型 (全体性パス) → 収束ロジック:
起業家アイデンティティは、個人が持っている全体の目的やその他アイデンティティとうまく調和したか?
(例:起業家として活動することは、大学教員(研究者 / 教育者) として地域や社会に貢献する上で矛盾を生じないか?」

🔹ウェブ型 (分配パス) → 加算ロジック:
起業家アイデンティティが、アイデンティティ全体のネットワークにとって、プラスの資源をもたらしたか?
(例:起業家として影響力と資金が獲得され、それによって質の高い研究を実施できそうか?」

-> 統合型の例:
起業家アイデンティティが「大学教員としての社会貢献」という目的を支えない場合、起業家としてのアイデンティティを弱める

まとめ

個人が複数のアイデンティティをどう認知的に構造化しているかによって、起業家アイデンティティをどんな動機で受け入れたり評価しているかが変わる

それによって、最終的に個人内にある複数のアイデンティティ・ネットワークがどう定着するか影響する

Fenters, V. W., Balven, R. M., Ashforth, B. E., Waldman, D. A., & Siegel, D. S. (2025). How identity structure influences identity adoption. Academy of Management Journal.
DOI: 10.5465/amj.2023.0520

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