インフォーマル経済における起業家の「可視性戦略」──見つけてもらう利益と見つかるリスク
南アフリカのタウンシップ全1,639社を調査。起業家は資源提供者と収奪者の双方に晒される「可視性のパラドックス」に直面し、相手を選んで姿を見せる「選択的可視性」で乗り越える。
2026.01.28 約4分で読めます
はじめに:インフォーマル経済とは?
国の法制度や税金のルールといった公式な枠組みの外側で、地域の慣習や人々の信頼関係に基づいて営まれる経済活動全般を指す
-> 発展途上国の貧困地域では、雇用の大部分を占めることもあり、人々の生活を支える上で不可欠な経済圏
しかし、法的な保護がないため、行政による取り締まりや犯罪といったリスクと常に隣り合わせの、不安定な環境でもある
インフォーマル経済の起業家が直面するジレンマ
見つけてもらうメリット:
顧客やサプライヤーといった資源提供者に見つけてもらえる
見つかるデメリット:
行政や犯罪者など資源収奪者に見つかってしまう
-> 「可視性のパラドックス」が、インフォーマル経済における戦略を理解する鍵
データと手法:タウンシップの全企業調査
南アフリカ・ケープタウンにおいて、地域内の全企業1639社を対象とした悉皆調査(スモールエリア・センサス)を実施
発見1:「どのように」見せるか? 可視性の2つの次元
ビジネスの「見せ方」には2つの異なる次元がある:
1. 当局志向の可視性:
法人登記や納税など、公的機関に対して自らを可視化する行為
2. コミュニティ志向の可視性:
看板の設置、大通りへの出店、営業時間の延長など、地域社会に対して可視化する行為
キーコンセプト解説:「選択的可視性」という戦略
選択的可視性は、一方のステークホルダーには自らを可視化しつつ、もう一方には不可視のままでいるという戦略的実践
不可視戦略をとる起業家が最も多い (58%, n=868) 一方で、それに次いで約3割の起業家が選択的可視性戦略、特に「コミュニティには見えるが、当局には見えない」状態を選択
発見2:「誰が」見せるのか? 社会的埋め込み度
では、どのような起業家がどの戦略を選ぶのか?鍵となるのが社会的埋め込み度(Social Embeddedness)
1. 埋め込み度が高い起業家(地元民、女性、高齢者など):
評判や口コミに頼れるため、「不可視」戦略をとる傾向
2. 埋め込み度が低い起業家(外国人、男性、若者など):
既存のネットワークに頼れないため、コミュニティ志向の選択的可視性戦略と強く関連
-> 積極的に自らをアピールする必要性を反映
発見3:可視性と事業成果の関係
分析の結果、全てのステークホルダーに姿を見せる完全な可視化戦略や、社会的埋め込み度が極めて高い起業家は、高業績につながる可能性が低いことが示された
埋め込み度が低い起業家(外国人、男性、若者)の場合、競争の少ないニッチな領域で新しい事業を始める際に、コミュニティ志向の選択的可視性を実践することが高業績への一つの道筋
一方、地元民(高い埋め込み度)でありながら若者や男性(低い埋め込み度)であるなど、複数の属性を併せ持つ起業家の場合、その状況を活かした複数の道筋が存在
-> 例えば、地元民の若者男性といった部分的埋め込み度の起業家の場合、高業績への道筋は複数存在
1. 競争の激しい業界で長く事業を続けてきた場合:
完全に不可視を貫く戦略が有効な場合がある
2. 競争の少ないニッチな業界で事業を行う場合:
当局志向の選択的可視性戦略(当局には登録するが、地域コミュニティへのアピールは抑える戦略)が高業績につながる可能性
まとめ
✅ インフォーマル経済の起業家は、資源提供者と資源収奪者の両方に見られてしまう「可視性のパラドックス」に直面
✅ 彼らは、特定の相手にだけ自らを見せる「選択的 可視性」という戦略でこのパラドックスを乗り越える
✅ どの可視性戦略が高業績につながるかは、起業家の社会的埋め込み度(国籍、性別、年齢など)と、事業環境(競争度など)の組み合わせによって決まり、複数の成功への道筋が存在
✅ インフォーマル経済の理解には、この文脈に応じた戦略的多様性を捉える視点が不可欠
書誌情報
Nason, R., Vedula, S., Bothello, J., Bacq, S., & Charman, A. (2024). Sight unseen: The visibility paradox of entrepreneurship in an informal economy. Journal of Business Venturing, 39(2), 106364.
