論文レビュー

起業家は従業員より幸せか──ウェルビーイングのメタ分析

起業と幸福度の関係を世界中の研究から統合したメタ分析。起業家は従業員より高いウェルビーイングを得る傾向があるが、その条件や文脈による違いも明らかにする。

2026.04.15 約3分で読めます

論文紹介Stephan et al. (2023) · Entrepreneurship Theory and Practice 論文を読む →

ウェルビーイング:起業家になる方が、従業員よりも幸せか?(Stephan et al., 2023)

研究背景

先行研究では、起業家のウェルビーイングは従業員より「高い」「低い」「変わらない」と結果がバラバラ

-> 本研究は、世界82カ国、94研究(319サンプル、670万人以上)のデータを統計的に統合・分析

ウェルビーイングを二つの側面から捉える:
✅ ポジティブ・ウェルビーイング:仕事や人生への満足感、喜び、自己実現や意味を感じるなどの精神的な豊かさ

💔 ネガティブ·ウェルビーイング:ストレス、不安、燃え尽きなどの精神的な不調

発見1:精神的豊かさ

起業家は従業員よりも有意に高い豊かさを報告

特に、仕事満足度と人生満足度で有意

-> 自分の裁量で働くことは満足度に繋がることを示唆

ただし、ポジティブな感情(喜びなど)やユーダイモニア的ウェルビーイング(自己実現や意味を感じること)では起業家と従業員の間で有意な差は見らず

発見2:精神的不調

起業家と従業員の間で、精神的不調(ストレスや精神的な落ち込み)に有意な差は見られず

では、起業家になれば必ず幸せになれるのか?

発見3:法の支配がウェルビーイングを左右

起業家と従業員の精神的不調の度合いは、法の支配の強弱で変わる

✅️法の支配が強い国:
従業員の方が起業家よりも精神的な不調を多く報告する傾向

❌️ 法の支配が弱い国:
起業家の精神的不調は従業員より多い

全体平均で「差がなかった」のは、国によって正反対の効果が生じ、それが相殺されていたから

-> 法の支配が強い国では、公正なルールが不確実性を減らし、起業家をストレスから守る

一方、弱い国では、不確実性や理不尽さがストレスを増大させる傾向

<補足:法の支配とは?>

この研究では以下の要素が指標:
・財産権 (property rights)
・腐敗からの自由 (freedom from corruption)
・ビジネスの自由 (business freedom)
・投資の自由 (investment freedom)
・貿易の自由 (trade freedom)
・金融・財政の自由 (financial and monetary freedom)

この指標の値が高い国は法の支配が強く、低い場合は弱い国と定義

発見4:精神的豊かさも法の支配と関係

どの国でも、起業家の方が従業員より精神的な満足度は高いが、法の支配が強いとそのアドバンテージがさらに大きくなる傾向

-> 国の安定した環境が、起業の喜びを増幅させ不安を減少させることを示唆

発見5:起業の動機でも差が

✅️機会追求による起業(選択的に起業):
全体的に従業員より精神的豊かさが高い傾向

✅️必要に迫られた起業(他に選択肢がなく起業):
全体的な精神的豊かさや人生満足度は従業員より低いが、仕事満足度においては有意な差がない

まとめ

起業家のウェルビーイングは、「法の支配」が整った国かどうかで変わる。

法の支配が強いと、精神的豊かさがより高く、精神的不調はより少なくなる傾向

単に起業を増やすだけでなく、起業家が心身ともに健康でいられる公平な社会基盤を作ることも、今後重要になることを示唆

論文はこちら:
Stephan, U., Rauch, A., & Hatak, I. (2023). Happy Entrepreneurs? Everywhere? A Meta-Analysis of Entrepreneurship and Wellbeing. Entrepreneurship Theory and Practice, 47(2), 553-593. doi:10.1177/10422587211072799

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