科学的アプローチによる事業の早期中止は的確な損切りか、有望の芽を潰すか
科学的意思決定がプロジェクトの選択と中止、そして長期的成果にどう影響するかを分析。早期撤退が賢明な損切りとなる条件を探る。
2026.07.01 約4分で読めます
科学的アプローチによる事業の早期中止は、的確な損切りか?有望な目を潰すか? Coali et al. (2024)
背景
近年「科学者のように仮説検証を繰り返す起業家」(Entrepreneurs-as-Scientists: E-a-S)という考え方が注目されている
-> 科学的アプローチを学んだ起業家は、プロジェクトを早期に中止する傾向が過去研究で示される
-> しかし、早期中止自体がもたらすスタートアップへの良し悪しについては不明
👍️良い可能性:見込みのない活動を見抜き、資源の浪費を防ぐ
👎️悪い可能性:判断を下すのが早すぎ、有望な事業の芽を摘む
調査方法
イタリア🇮🇹の起業家382人をランダムに2グループに分け、アイデア検証と事業開発に関する研修を実施
🔹実験群:科学的アプローチ(理論構築→仮説設定→テスト→評価)に基づく意思決定を学ぶ
🔹対照群: 同様の研修内容だが、科学的アプローチの指導はなし
-> 研修中~終了後66週間の短期データに加えて、約5年後の長期追跡データも分析
💡発見1:科学的アプローチによって事業価値に対する「期待値」が早期に下がる
プロジェクトを中止した科学的アプローチ採用の起業家は、中止決定前の時点でプロジェクト価値への期待をより早く・大幅に下方修正
-> 中止する確率予測を上方修正していたことが判明
この期待値の下方修正は妥当だったか?:
外部資金調達の有無と専門家評価によってプロジェクトの「客観的価値」を比較
-> 中止されたプロジェクトの質は、科学的アプローチ非採用の場合で中止されたものと有意な差はなし
-> つまり、科学的アプローチによって、より早期に的確な形で価値判断が促されていた可能性
💡発見2:短期的な業績も良い傾向
中止されなかったプロジェクトを比較すると…
🔹科学的アプローチを採用するプロジェクトは、収益が高い傾向
🔹さらに外部資金を調達しやすい傾向も確認
-> 科学的アプローチによる厳格なプロジェクトの選別が、質の高い活動を残す結果になっていることを示唆
💡発見3:長期的効果も確認
🔹プロジェクト中止率の逆転:
短期的には科学的アプローチを採用する起業家のほうが、プロジェクト中止率が高い
しかし、長期的には非採用の起業家よりも中止率が低くなる
-> 採用起業家は早期に損切りする一方、非採用起業家は後になってから諦めるケースが多い可能性
🔹事業化成功率:
対照群よりも、科学的アプローチによるプロジェクトは事業化成功率が高い (採用群:18.9% vs 非採用群:12.5%)
🔹生存率:
科学的アプローチで選ばれ残ったプロジェクトは、長期的に見ても生存率が高い傾向
💡発見4:「新たなアイデア」が生まれやすい
最初のプロジェクトを科学的アプローチで中止した後も、対照群に比べてより多くの新しい事業アイデアを生み出す傾向
想定されるメカニズム:
1. 見込みの薄いアイデアに固執しない
2. 早期にリソースを解放
3. 新たな可能性に挑戦する「探索行動」が促される
-> 失敗は成功のもとを体現か
まとめ
科学的なアプローチによるプロジェクト実施が有効な理由:
🔹的確な現状認識:
理論と仮説に基づきデータを収集・分析するため、プロジェクトの真の価値や課題をより正確に把握可能
🔹コミットメントのエスカレーション回避:
客観的な証拠に基づいて判断するため、感情的な思い入れやサンクコストに囚われず、見込みのないプロジェクトからの早期撤退を促進
🔹資源の効率的な再配分:
見込みのないアイデアに固執しないで早期に損切りできるため、時間や資金などの貴重なリソースを、より有望な新しいアイデアに早めに振り向けられる
-> 客観的なアプローチが早期のプロジェクト中止を可能にし、リソースがある状態での次の挑戦を促進する
Reference:
Coali, A., Gambardella, A., & Novelli, E. (2024). Scientific decision-making, project selection and longer-term outcomes. Research policy, 53(6). doi:10.1016/j.respol.2024.105022
