会ったこともないインフルエンサーが起業家のメンターに?──パラソーシャル・メンタリング
起業インフルエンサーを「自身が起業家」とする従来の視点を超え、彼らが視聴者である起業家に一方向的に与える「パラソーシャル・メンタリング」の効果を検証する。
2026.03.25 約3分で読めます
研究背景
これまでの研究は、インフルエンサーを「自身のコンテンツで収益を上げる起業家」として捉える視点が中心
では、そんなインフルエンサーをフォロワーしている起業家に対して、どんな影響があるのか?
-> 22人の起業家へのインタビュー調査を実施し、起業家がインフルエンサーのコンテンツをどう解釈しているかを探求
発見1:パラソーシャル・メンタリング」
インフルエンサーをフォローする起業家は、まるでインフルエンサーから個人的な指導を受けている感覚をもっていると判明
研究者たちはこの新しい関係を「パラソーシャル・メンタリング」と名付けた
-> これは「相手は自分のことを知らない」と分かっていながらも、メディア上の人物を師と仰ぎ、一対多の発信を自分個人への指導(コーチング、ロールモデルなど)と捉える、一方的な仮想の師弟関係
💬ある起業家の発言:
「僕にとって核となるメンターが2人いるんだ。まあ、会ったことはない仮想の存在だけどね」
発見2:効果の検証
「パラソーシャル・メンタリング」が起業家に何をもたらすのかを検証するため、613人の起業家を対象にサーベイ調査を実施
その結果、この仮想の師弟関係が「両刃の剣」であることが明らかになった
<ポジティブな側面>
✅ 起業家としての自己効力感 (Self-Efficacy) の向上
✅ 事業への楽観性 (Venture Optimism) の向上
✅ 将来の事業継続への意欲 (Anticipated Venture Persistence) の向上
✅ 孤独感を和らげる所属感 (Sense of Belonging) の向上
<ネガティブな側面>
❌️ 不全感や劣等感 (Feelings of Inadequacy) が増大する傾向
-> インフルエンサーの華やかな(しばし脚色された)成功ストーリーと自分を比較し「自分はなんてダメなんだ…」と自信を失ってしまうことも
双方向のメンタリングであれば「君の状況なら、それで十分すごいよ」と個別のフィードバックがあるが、インフルエンサーからの影響を一方的に受けるだけ
-> 従来のメンタリングのような対話がないため、インフルエンサーとの比較から生じるネガティブな感情を修正する機会がなく、その影響を直接的に受けてしまうデメリットが明らかに
発見3:エンゲージメントが効果を増幅
インフルエンサーのコンテンツにより関わる(エンゲージメントが高い)起業家ほど、自信や楽観性、事業継続意欲といったポジティブな効果と、不全感というネガティブな効果の両方が増幅される傾向
ただし、所属感への効果はエンゲージメントによって増幅されず
-> 熱心なフォロワーほど、ポジティブな側面だけでなくネガティブな側面からも大きな影響を受ける可能性
まとめ
SNS時代の起業家インフルエンサーは、仮想メンターとしての役割を果たす
しかし、その関係は、私たちを奮い立たせる一方で、深い劣等感の沼に突き落とす危険もはらむ
論文はこちら↓
D'Oria, L., Scheaf, D. J., Michaelis, T. L., & Lerman, M. P. (2025). Para-social mentoring: The effects of entrepreneurship influencers on entrepreneurs. Journal of Business Venturing, 40, 106439.
