破壊者か協力者か──教育や医療の巨大市場を動かす2つの成功戦略
教育や医療など確立した分野への新規参入は「二重の問題」に直面する。商業的起業と制度的起業を橋渡しする「マーベリック(破壊者)」と「ディプロマット(外交官)」の戦略を提示する。
2026.03.11 約3分で読めます
研究の背景
教育や医療のような確立された分野に新規参入する場合、「二重の問題」に直面する
1️⃣新しい市場の不確実性:
製品、顧客、技術など、何が正解かわからない
2️⃣確立された分野の抵抗:
既存の規範や価値観、プレイヤーからの抵抗に遭う
「速く動いて破壊せよ」という起業家的な常識 vs
「信頼と伝統を重んじる」という既存分野の論理
-> どう乗り越えるのか?
キーコンセプト解説:2つの戦略アプローチ
本研究は、MOOC(大規模公開オンライン講座)市場に参入した2つのそっくりなEdTechベンチャーを分析し、2つの成功プロセスを特定
異端児 (Maverick) モデル:
競争的で、学習中心のアプローチ。既存組織(研究事例では大学)を「代替する」というビジョンを持つ
外交官 (Diplomat) モデル:
協力的で、外交中心のアプローチ。既存組織を「補完する」というビジョンを持つ
発見1:「異端児」の戦略形成プロセス
競争的ビジョンと広範な学習:
まずは競争相手と距離を置き、市場で高速なA/Bテストなどを繰り返し、何がうまくいくかを徹底的に「学習」
-> しかし、既存分野の規範と衝突し、大きな抵抗に遭う
ピボットと戦略的差別化:
学習から得た知見を基に、既存組織である大学を代替する路線から企業向け研修へとピボット(方向転換)
-> 既存の教育モデル(学位など)の要素を取り入れつつも、重要な点で戦略的に差別化された活動を追加していく
発見2:「外交官」の戦略形成プロセス
協力的ビジョンと広範な連合形成:
まずは市場での学習よりも、トップ大学との提携を優先し、分野内での「正統性」を確立することに注力
-> 外交交渉のように、多くの大学を巻き込み巨大な連合を形成
緩やかな移行と収益活動の共創:
確立した信頼関係をテコに、収益化へと緩やかに移行(Segue)
-> 提携大学と協力しながら、彼らが受け入れ可能な収益モデル(有料証明書など)を共創
発見3:2つの道に共通する問題解決の構造
全く異なるこの2つのプロセスは、根底で「意思決定の織り込み(Decision Weaving)」という同じアプローチを共有
-> 複雑な問題を一度に解こうとせず、まず問題の一部分(市場の不確実性 or 分野の正統性)に集中して解を見出し、その解を足がかりにして、次にもう一方の問題に取り組む方法
まとめ
✅ 確立された分野での起業は「市場の不確実性」と「分野の抵抗」という二重の問題に直面
✅ 成功への道は2つ:
「異端児」はまず学習し、次にピボットする。「外交官」はまず正統性を確立し、次に緩やかに移行
✅ 両者に共通するのは、複雑な問題を段階的に解く「意思決定の織り込み」という構造
✅ 既存分野の変革には、国家のような外交戦略と、性急な実験を避ける協調的学習が鍵となる
書誌情報
Volmar, E., & Eisenhardt, K. M. (2024). Mavericks and Diplomats: Bridging Commercial and Institutional Entrepreneurship for Society’s Grand Challenges. Organization Science.
