論文レビュー

アジャイル開発が戦略プロセスをオープン化した事例──オープン戦略の浸透

トップ・マネジメントの聖域だった戦略プロセスに、アジャイル開発の浸透を通じて透明性と包摂性がもたらされる「戦略実践のドリフト」を事例から明らかにする。

2026.03.09 約3分で読めます

論文紹介Stjerne et al. (2022) · Journal of Management Studies

キーコンセプト解説:オープン戦略とは?

オープン戦略とは、戦略プロセスにおいて「透明性(Transparency)」と「包摂性(Inclusion)」を実践すること

-> より多くの情報を、より多くの人々と共有し、戦略策定に関与させることを指す

研究の背景:オープン戦略のジレンマ

組織におけるオープン戦略は、トップマネジメントの権力基盤を揺るがすため、導入には抵抗が伴うはず

しかし、現実にはそのようなオープン戦略が多くの組織で広まっている

-> 本研究は、オープン戦略の意図的な導入(トップダウン)でも、草の根的な発生(ボトムアップ)でもない、第三の道「浸透(Infiltration)」が焦点

ある金融機関でアジャイル開発が、オープン戦略を浸透させることになった18ヶ月のプロセスを分析

発見1:浸透を可能にする「仕掛け」

トップ・マネジメントは、オープン戦略につながる「アジャイル開発」の導入を許可した2つの背景

1. 目標ベースの曖昧さ:
アジャイル開発導入のメリットとして、効率化、顧客中心、柔軟性向上など、誰もが賛成する曖昧で魅力的な目標が掲げられていた

-> その裏に潜む「戦略プロセスのオープン化」という影響が見過ごされていた

2. 手続き上の確実さ:
アジャイルには、明確な手引書や専門のコーチが存在し、安全で管理可能、かつ成果が確実に見込める手法に見えた

発見2:「戦略的実践のドリフト」というプロセス

アジャイル導入後、戦略プロセスは「戦略的実践のドリフト」と呼ばれる、緩やかで気づかれにくい変化を始めた

-> 現場レベルでオープン戦略が徐々に広がっていくプロセス

このドリフトは、2つの実践によって駆動された

1. 順応 (Accommodating):
アジャイルチームが成果を出すには、他部署(法務、財務など)の協力が不可欠

そのため、これらの部署もアジャイルチームと協働する中で、次第に透明で包摂的な実践に適応していき、結果としてオープンなやり方が組織内に広がっていった

2. 正当化 (Legitimizing):
アジャイルチームは、データを用いて自らの成功を積極的にアピール

これにより、この新しいやり方が組織にとって有益であると正当化され、さらなる拡大への道が開かれた

発見3:トップマネジメントの「事後対応」

やがてトップマネジメントも組織の変化に気づく

しかし、既成事実化し、成果も出ているため、簡単には元のクローズドな組織に戻せない

そこで彼らがとった行動:

1. 目標ベースの合理化:
「このオープンなやり方は、我々が元々目指していた戦略目標(顧客中心など)を達成するために不可欠だ」と、後付けで変化を合理化

2. 手続き上の再交渉:
全てを現場任せにするのではなく、「優先順位の50%はトップが決める」といったルールを導入し、失われたコントロールを部分的に取り戻そうと「再交渉」した

まとめ

✅ オープン戦略は、トップマネジメントの知らないうちに組織に浸透することがある

✅ その引き金は、「目標の曖昧さ」と「手続きの明確さ」を併せ持つイニシアチブ(例:アジャイル開発)

✅ 現場での「順応」と「正当化」を通じて、オープンな実践が徐々に増えていくいく

✅ 最終的にトップマネジメントは変化を「合理化」し「再交渉」することで、結果的にオープン戦略を組織に定着させる

書誌情報

Stjerne, I., Geraldi, J., & Wenzel, M. (2022). Strategic Practice Drift: How Open Strategy Infiltrates the Strategy Process. Journal of Management Studies.

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