論文レビュー

スティグマのある製品をどう主流市場へ──女性のためのセックス・トイの事例

スティグマを伴う領域で、起業家が「身体」を文化的資源として用いる戦略を分析。女性による女性のためのセックス・トイ事業を事例に、市場の主流化のプロセスを示す。

2026.08.12 約3分で読めます

論文紹介Bojovic et al. (2025) · Journal of Business Venturing 論文を読む →

どうすればセックス・トイを主流な市場の製品として展開できるか? Bojovic et al. (2025)

前提

女性の性的快楽のための製品は、歴史的に社会的偏見や汚名(Stigma)に直面

-> 製品デザインの性的露骨さや行為そのものが「不道徳」という認識から、メインストリームでの展開は困難だった

しかし、近年になって女性起業家たちの成果によって状況が変わりつつある

論文での分析対象は、アメリカ🇺🇸とイギリス🇬🇧の女性向けセックス・トイを提供するスタートアップ5社。インタビュー22件、メディア記事797件などを分析。

理論的背景

Goffmanのスティグマ理論を拡張し、製品の社会的偏見を3つに分類:
1️⃣ 女性向けであることによる偏見
2️⃣ 製品の外観や形状による嫌悪感
3️⃣ 不道徳な行為を助長するという認識

📝発見1: 起業家は3つの戦略を駆使

上記3つの側面に対し、起業家は以下の3つの戦略を活用

1️⃣ 女性の経験を可視化:
これまで語られにくかった女性の性的経験やニーズをオープンにし、製品の存在意義や真正性を主張

-> 女性起業家自身の当事者性を前面にしながら「女性による女性のためのデザイン」を強調。男性中心だった業界に異議を唱える

2️⃣ 製品デザインの洗練による曖昧化:
直接的な形状を製品に採用せず、ジュエリーのような洗練されたデザインや抽象的なフォルムを採用

-> 公共の場での抵抗感を和らげ、製品を見せられるものへ

3️⃣ 製品価値の転換:
不道徳な行為への認識に対し、製品の機能を「性的快楽」から「健康・ウェルネス」へと拡張・再定義

-> ストレス軽減効果や睡眠改善効果を強調、ウェルネス製品として訴求

📝発見2:上記3つの戦略は相互に連携し相乗効果を発揮

1つ目の可視化による女性解放の物語は、2つ目の曖昧化による美しいデザインの正当性を高める

また、3つ目の転換戦略による「ウェルネス」という新たな意味づけは、性的快楽のための製品が「美容・健康」といった従来のカテゴリーに受け入れられることを後押し

📈発見3:タブー視された製品の社会認識が変化

戦略的な市場展開は、タブー視されていた製品に対する社会の認識を変え、メディア / 小売業者 / 投資家など主要なステークホルダーからの正当性を獲得

結果として、製品は「公共の場で展示ができ」「一般的なカテゴリーに属する」「社会的なインパクトをもたらす製品」と認識される

まとめ

社会的偏見 / 汚名(スティグマ)に直面する起業家が、スティグマの源泉そのものに対して戦略的にアプローチ

-> 可視化、曖昧化、転換というアプローチによって、製品の文化的意味を再定義し、主流市場での正当性を獲得

Reference: Bojovic, N., Garud, R., & Cheded, M. (2025). The body as a cultural resource for entrepreneurs in stigmatized settings: The case of sex toys by women for women. Journal of Business Venturing, 40(1). doi:10.1016/j.jbusvent.2024.106449

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