静かな退職をいかに食い止めるか──人事制度が「仕事の意味」と「自信」を通じて意欲を高める
インドのIT企業422名を調査。ハイパフォーマンス・ワーク・システムは、心理的意味づけと心理的余裕を高めることで静かな退職を抑制する。ただし過度な要求と受け取られれば逆効果にも。
2026.01.07 約4分で読めます
静かな退職をいかに食い止めるか:人事制度が「仕事の意味」と「遂行への自信」を通じて意欲を高めるメカニズム
研究の問い
従業員の能力と意欲を最大限に引き出す人事制度(ハイパフォーマンス・ワーク・システム)が「静かな退職」を促進するのか、それとも抑制するのか?関連する心理的プロセスは何か?
-> インドのIT企業に勤務する422名の従業員を対象に調査を実施
キーコンセプト解説
1. 静かな退職(Quiet Quitting):
従業員が意欲を失い、必要最低限の仕事しかしない状態
この行動は、不十分な報酬、過大な業務量、燃え尽き、キャリアの停滞、成長機会の欠如といった様々な要因から生じると指摘されている
本研究では、こうした状況下で自らの資源(エネルギー、時間)を守ろうとする従業員の防衛戦略だと考える
2. ハイパフォーマンス・ワーク・システム(HPWS):
厳格な採用、充実した研修、権限移譲、成果連動報酬などを組み合わせ、従業員の能力と意欲を最大限に引き出すことを目指す包括的な人事制度
3. 資源の保存理論(COR理論):
この理論は「人間は、自らが持つ資源(時間、エネルギー、自信、社会的支援など)を維持・獲得しようと動機づけられる」と考える
本研究では、静かな退職を「これ以上の資源を失わないための防衛戦略」と位置づけ、HPWSを「従業員に新たな資源を提供する仕組み」と捉えている
4. 心理的条件:
本研究では、HPWSが静かな退職に影響を与えるプロセスを解明するため、従業員の心理状態を左右する2つの重要な条件に着目
1) 心理的意味づけ (Psychological Meaningfulness):
自分の仕事は価値があり、自己を投じるに値すると感じる度合い
2) 心理的余裕 (Psychological Availability):
仕事に打ち込むための身体的、感情的、認知的な資源が自分には十分にあり、いつでも使えると信じている状態
発見1:HPWSは「静かな退職」を抑制する
分析の結果、HPWSは「静かな退職」と有意な「負の相関」にあることが示された
つまりHPWSが整備されている職場ほど、従業員は「静かな退職」に陥りにくい
-> HPWSが従業員にとって重要な「資源」(キャリア機会、スキル、報酬など)を提供し、資源を守るための消極的な行動の必要性を減らすためと考えられる
発見2:仕事への意味と余裕が鍵となる
HPWSは、従業員の「心理的意味づけ」と「心理的余裕」を有意に高める
-> 従業員は、自分の仕事がより意味のあるものだと感じ、業務を遂行する自信とエネルギーを持つようになる
発見3:HPWSが静かな退職を抑制するメカニズム
高まった「心理的意味づけ」と「心理的余裕」は、それぞれが「静かな退職」を抑制する効果を持っていた
-> HPWSが静かな退職を減らす効果は、これら2つの心理的条件を介して発揮されることが示された
HPWSは、単に従業員を働かせるだけでなく、仕事への意味づけと自信を与えることで、内発的なエンゲージメントを育んでいた
まとめ
「静かな退職」を防ぐ鍵は、従業員の心理状態にある
HPWS(ハイパフォーマンス・ワーク・システム)は、従業員に仕事の「意味」と遂行への「自信」を与えることで、彼らが自らの資源を守るために意欲を低下させる必要性をなくし、「静かな退職」を抑制する
一方、本研究の考察では、HPWSが常に有効とは限らない二面性も指摘されている
HPWSは従業員に資源を提供するが、過度なパフォーマンス要求と受け取られれば、かえって燃え尽きやストレスにつながる可能性もある
-> HPWSが静かな退職を抑制する効果を発揮するかは、従業員がその制度の意図を
「自身の成長を支援するための資源の提供」と前向きに解釈するか、
それとも「さらなる成果を求める過度な要求」と否定的に解釈するかに大きく左右されると考えられる
書誌情報:
Agarwal, P., Kaur, P., & Budhwar, P. (2024). Silencing Quiet Quitting: Crafting a Symphony of High-Performance Work Systems and Psychological Conditions. Human Resource Management, 64(3), 621-635.
