イノベーション研究の最先端:世界のトップ・ジャーナル紹介シリーズ -
シリーズ概要
世の中には、最先端かつ高品質の研究結果が掲載される世界トップレベルの論文誌(トップ・ジャーナル)がいくつかあります。このシリーズでは、主に経営学のトップ・ジャーナルに焦点を当て、イノベーションに関わる最先端の研究を紹介します。
本日のトップ・ジャーナル
Organization Science: OS
McDonald, Rory, and Cheng Gao. "Pivoting Isn’t Enough? Managing Strategic Reorientation in New Ventures." Organization Science 30, no. 6 (2019): 1289-318. https://doi.org/10.1287/orsc.2019.1287.
以前の記事で、事業ピボットをどのように決めるのかに関する論文を紹介しました。今回は、そのピボットを決めた際に、どのようにして利害関係者に共有すべきかについて示唆を与える研究を紹介します。
この論文では、ある金融テック系の2社を対象に調査が行われました。両者も事業ピボットをしながら試行錯誤をする中で、最終的にはどちらも類似したサービスを提供することになりました。しかし、一方の企業はうまくいきましたが、一方の企業はうまくいかず身売りする結果になりました。
ピボット前後の様子を分析した結果、事業をピボットするときの利害関係者に対するコミュニケーション視点として、3つの点が重要であるとわかりました。
今回の記事では、3つの要素のうち最初の1つである「事業目的の抽象度」について紹介します。
ここでいう事業目的の抽象度とは、自分たちの手掛けるビジネスを抽象的な目的から語るのか、それともより具体的な目的で語るのかという違いのことです。
具体的には、今回の調査対象でピボットに成功した企業は「金融の民主化」というビジョンの実現を目的にして事業を展開していました。これは、金融が一部の限られた人たちのみしか機能していないことを問題意識として提示した、かなり抽象度の高い目的となります。
一方のうまくいかなかった企業は「市場にこんな顧客がいるので、このように彼らの課題を解決する」と、より具体的な内容を目的に掲げていました。この場合、具体的な市場における特定顧客の課題を解決するためのサービスとなるので、事業目的の抽象度は比較的そこまで高くないと言えます。
前者のうまくいった企業は、ピボット時に事業が変わっても当初の約束はあくまで「金融の民主化」であるため、その目的は変わっていないという説明が可能です。
一方、後者のうまくいかなかった企業は、関係者に当初約束した目的が「特定の顧客が抱えている問題の解決」であったため、ピボット後の事業に一貫性がない印象を関係者に与えてしまいます。
今回の研究結果から、イノベーション活動を始める際には「目先の組織目標」ではなく「壮大な社会目標」を賛同してもらって事業開始をした方が好ましい、ということが言えるかもしれません。
「いくら儲かるのか」という組織の視点も重要かもしれませんが、それ以前に「なぜうちの会社でこの新しい取り組みをするのか。どんな社会的意義があるのか」といった議論も重要です。
あなたの会社では、新しい取り組みの際にどの程度社会的意義や目標が議論されているでしょうか?ぜひ考えてみてください。
【Part 1】事業ピボットに成功する企業とそうでない企業の違い