イノベーション

【Part 2】事業ピボットに成功する企業とそうでない企業の違い

2020.09.21

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柏野 尊徳 | Takanori KASHINO

アイリーニ・マネジメント・スクール

【Part 2】事業ピボットに成功する企業とそうでない企業の違い

イノベーション研究の最先端:世界のトップ・ジャーナル紹介シリーズ -

シリーズ概要

世の中には、最先端かつ高品質の研究結果が掲載される世界トップレベルの論文誌(トップ・ジャーナル)がいくつかあります。このシリーズでは、主に経営学のトップ・ジャーナルに焦点を当て、イノベーションに関わる最先端の研究を紹介します。

本日のトップ・ジャーナル

Organization Science: OS

McDonald, Rory, and Cheng Gao. "Pivoting Isn’t Enough? Managing Strategic Reorientation in New Ventures." Organization Science 30, no. 6 (2019): 1289-318.

今回は、前回に引き続き、事業ピボットの際に重要な点について紹介します。前回は、3つの重要なポイントの1つ目である「事業目的の抽象度」を紹介しました。

【Part 2】事業ピボットに成功する企業とそうでない企業の違い

2つ目のポイントは、事業ピボットをする際にどのように自分たちの行動を正当化するかです。うまくいった企業は「私たちのこれまでのサービスでは、金融の民主化に寄与することが難しいとわかりました。金融の民主化を成功させるためには、既存のアプローチとは違う方法が必要です」とメディアや出資者に説明しました。

自分たちの最初の事業がうまくいかなかったこを素直に謝罪した上で、ピボットした新しい事業は引き続き自分たちの目的「金融の民主化」を実現するためのものであると伝えたのです。

一方のうまくいかなかった方の企業では、そのような説明はありませんでした。この企業は、それまで「金融のFacebookをつくる」「自由に投資の意見についてシェアすることができる」といって展開していたプラットフォームを提供していました。

しかし、最初の事業がうまくいかないとわかると、自動で投資のアドバイスがもらえる金融プラットフォームの提供へと事業を切り替えました。この事業は、うまくいった企業と同様のサービスでもあります。

3つ目の視点が、どのように事業が切り替わったのかに対する具体的な説明です。うまくいった企業は、メディアや出資者、既存サービスを利用していたユーザーに対して何度も説明を行いました。

一方、最終的にうまくいかなかった企業の方は、関係者に一切説明をせず、突如として新しいサービスを始めました。当然、関係者からの評価は悪く、メディアでもこの会社や事業ピボットに対して批判的な記事が出るようになりました。

前回と今回の記事で紹介した研究は、スタートアップ企業を対象に行われたものですが、すでに組織が確立されている大きな企業でも示唆があると思います。

なぜなら、組織の中で新事業に取り組む際も、関係者に対する説明が重要であることに変わりはないからです。

今回とりあげた論文を踏まえると、事業創造には抽象度の高いビジョンが必要であり、ピボットの際はビジョンを変えずに事業のビジネスモデルを変える、そしてピボット自体についてしつこいくらいに周囲の関係者と丁寧なコミュニケーションを行う、ということです。

どれも重要なポイントですが、個人的にまず組織活動において見直すべきは新規事業の目的だと考えています。単に「こんな市場があるので儲かります」ではなく、「こんな社会課題があるので、うちの会社はこういう事業を行うべきです。市場規模はこれぐらいで、うまくいくとこのような利益が出ます」という形の説明です。

社会課題や長期的な視点が土台にあり、その上でのビジネスモデルが提示される事業ストーリーということですね。もし、社会課題への意識が弱い活動があるのであれば、これを機にチームや部門で議論してみるのはいかがでしょうか。

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