イノベーションにおけるリーダーの課題:パラドキシカル・リーダーシップ01
イノベーション推進の課題に関連する「パラドキシカル・リーダーシップ」とは、チームや組織を牽引する際に「発散 vs 収束」「自由 vs 統制」という相反する要素をバランスよく調和させることを意味します。このバランスを実現させるうえで、ファシリテーション・スキルは不可欠となります。
今日はこの前提を基に、チームメンバーのモチベーションに焦点を当てます。
組織でイノベーションを実現するには、関係者のモチベーションを刺激し、維持することが大切です。しかし、新しい挑戦は不確実なことが多く、このことがモチベーションの低下につながる場合があります。この点を踏まえ、リーダーはチームのモチベーションを理解しながら適切にプロジェクトをマネジメントする必要があります。
しかし、ファシリテーションスキルが未熟な場合、よくある失敗が起こる可能性が高くなります。その一つは、リーダーがメンバーの自主性を重視するあまり、放任主義に偏ることです。自由が高まりすぎると、メンバーの不安感がより強くなったり成果に直結しない行動が増えるようになります。もうひとつの失敗例は、リーダーが細かく指示を出して管理することで、関係者のやる気が損なわれて保守的になり、新しい挑戦がおこらなくなることです。
ここで重要なのは、必要な管理や統制は行う一方で、メンバーが自由に発言できる環境も同時に作り出す、パラドキシカル・リーダーシップの発揮です。
180人の従業員と25名のリーダーを対象に行なった近年の研究によれば、パラドキシカル・リーダーシップの効果的な発揮により、メンバーのモチベーションと創造性が高まると示唆されています。
モチベーションは様々な要因で高まりますが、重要な要素として「有能感」と「自律性」があります。有能感は「自分にはこの仕事ができる」という感覚、自律性は「自発的に物事に取り組んでいる」という感覚です。
イノベーション活動におけるモチベーション課題に、有能感と自律性のバランスがあります。例えば、プロジェクトの自由度が高すぎると、メンバーにとっての難易度が高まりすぎてしまい「この仕事は無理ではないか」と有能感が低下します。一方、自由度を減らしてコントロールしすぎると「リーダーが言うからやっているだけ」と自律性が低下します。
これらの課題を克服するためには、チームメンバーのやる気がどのようなメカニズムで高まったり下がったりするのかを適切に把握することです。その上で適切なファシリテーションを行うことは、関係者のモチベーションを高め、創造的思考を刺激することにつながります。これは、関係者が自己の能力を信じ、自主性を保ちながらもチームの目標達成に貢献できる環境を積極的に作り出すことを意味します。
次回は、今回紹介したモチベーションに関する要因をさらに分解して紹介します。
新しい挑戦の中で上下するチームのモチベーション 後半:パラドキシカル・リーダーシップ03
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