リーダーシップイノベーション心理学マネジメント

新しい挑戦の中で上下するチームのモチベーション 後半:パラドキシカル・リーダーシップ03

期待-価値理論:the Expectancy-Value Theoryを土台に

2023.11.17

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柏野 尊徳 | Takanori KASHINO

アイリーニ・マネジメント・スクール

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新しい挑戦の中で上下するチームのモチベーション 後半:パラドキシカル・リーダーシップ03

前々回前回の記事では、パラドキシカル・リーダーシップを切り口に、リーダーの課題やファシリテーションの重要性について紹介してきました。例えば、イノベーションを推進するリーダーには「発散 vs 収束」「自由 vs 統制」という相反する要素をバランスよく調和させる能力が大事であることです。今回は、前回に引き続きモチベーションに焦点を当てます。具体的には、イノベーションや新規事業創造において重要となる「期待-価値理論(the Expectancy-Value Theory)」 を取り上げます。

イノベーションにおけるリーダーの課題:パラドキシカル・リーダーシップ01

新しい挑戦の中で上下するチームのモチベーション 前半:パラドキシカル・リーダーシップ02

期待 :Expectancies

私たちが新しいことを始める時、そこには大きく分けて2種類の期待があります。一つは今まさに始めたことが望ましい将来につながるという「結果への期待(outcome expectanices)」です。もう一つは、自分には結果を得るための能力やスキルがあると信じている「効力への期待(efficacy expectancies)」です。

一般的に、イノベーションや新規事業に取り組むメンバーのモチベーション維持が難しい理由も、結果への期待と効力への期待で説明できる部分があります。なぜなら、新規事業は不確実性が高いため「今の行動や取り組みが、本当に望ましい結果になるのか」曖昧なケースが多くなります。

よって、活動プロセスが曖昧であると、結果への期待が低くなります。また、もしメンバーの中にそれまで新しいことに取り組んだことがない人がいれば、「自分にはうまくできるスキルが足りないかもしれない」と効力への期待が下がるかもしれません。

このような状況を避けるには、今の活動が将来につながっているという感覚(結果への期待)と、そのためにチームで協力して歩んでいけるという実感(効力への期待)が必要です。

パラドキシカル・リーダーシップは、このような環境を作り出す上で重要な役割を果たします。メンバーが自己の能力を信じ、自主性を保ちながらもチームの目標に向かって努力できるような環境を構築する責任がリーダーにはあります。

イノベーションや新規事業における適切な期待の醸成に成功すれば、チームメンバーの自主性を促進し、不確実性や困難な状況に対して柔軟かつ創造的に対応する能力が強化されるでしょう。

価値:Value

期待と合わせて重要なモチベーション構成要素が価値であり、大きく分けて3つあります。

  1. 達成価値:Attainment Value - 個々の目標やタスクの達成によって得られる
  2. 内発的価値:Intrinsic Value - 取り組んでいることそのものから得られる
  3. 道具的価値:Instrumental Value -  将来の目標達成に役立つために得られる

1.達成価値(Attainment Value)

新規事業における達成価値は、そのプロジェクトを成功裏に完了し、市場に新しい製品を導入することから得られる満足感です。例えば、持続性の高い製品やサービスを開発することで市場や社会から評価を得られれば、チームメンバーは達成感を得ることができます。

2.内発的価値(Intrinsic Value)

内発的価値は、例えば、新しいサービスの開発において、創造的なプロセスそのものを楽しむことから生まれます。チームが革新的なアイデアを探求し、実験を重ねる過程での学びや創造の喜びそのものが、内発的価値を高める要因となります。

3.道具的価値(Instrumental Value)

道具的価値は、現在の取り組みが将来の大きな目標につながると見出すことで得られます。これは個人的なものでも当てはまり、例えば、事業開発に挑戦することがスキルアップにつながったり、社内の出世に関連する場合です。新しい取り組みがチームメンバーそれぞれの長期的なキャリア目標に繋がっている場合、それは大きな道具的価値を持ちます。

以上のように、達成価値は目標の実現、内発的価値は仕事そのものの楽しさ、道具的価値は長期的な目標達成へのつながりと関連しています。

一概には言えませんが、イノベーションや新規事業への取り組みは成果が出るまで時間がかかることがほとんどです。さらに、失敗する確率のほうが高いというやっかいな特徴ももっています。よって、「達成価値」を感じることが難しいケースが多くなります。

一方で、プロセスそのものを楽しむことができれば「内発的価値」を得ることはそこまで難しくはありません。また、リーダーがメンバーの個人的目標を理解していれば、その目標につながる「道具的価値」を提示することも可能です。

パラドキシカル・リーダーシップを意識すると、リーダーは二つの極端な状態の間のバランスをとる必要があります。過度な成果主義によってチームメンバーが必要以上のストレスを感じないようにする必要がありますし、その一方では単なる楽しみや創造的自由がイノベーションや事業創造の目的から逸脱しないようにする必要があります。

たとえば、プロジェクトが長期的な戦略的目標にどのように貢献するかを明確にしながらも、個々のメンバーが自身の仕事に情熱を持ち、創造的な過程自体に喜びを見出すことを支援・促進することが考えられます。

まとめ

イノベーションや新規事業の成功には、チームメンバーの高いモチベーションが欠かせません。

これを達成する鍵の一つは、パラドキシカル・リーダーシップという相反する要素をうまくコントロールする視点です。

期待-価値理論によると、モチベーションは「期待」と「価値」の二つの要素によって形成されます。期待は、目標達成の自信と行動が望ましい未来へと繋がる信念です。そして価値は、達成感、取り組み自体の満足感、そして行動が将来の目標に役立つという認識から生じます。

リーダーは、これらの要素を理解した上で、バランスを取りながらチーム活動をリード/促進する必要があります。具体的には、期待と価値に関するメンバーの認識についてリーダーは話し合う機会をもちながら、チームメンバーのモチベーションが高まる環境をつくることです。

パラドキシカル・リーダーシップという理論の理解と、チーム活動を促進するファシリテーション実践により、チームのポテンシャルを最大限引き出したイノベーション推進が実現します。

参考文献

  • Ambrose, S. A., Bridges, M. W., DiPietro, M., Lovett, M. C., & Norman, M. K. (2010). How learning works: Seven research-based principles for smart teaching: John Wiley & Sons.
  • Eccles, J. S., & Wigfield, A. (2002). Motivational beliefs, values, and goals. Annual review of psychology, 53(1), 109-132.
  • Wang, Q., & Xue, M. (2022). The implications of expectancy-value theory of motivation in language education. Frontiers in Psychology, 13

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