リーダーシップ社会問題イノベーションマネジメント

日本のリーダーには何が必要か:鼎談04

第4回「イノベーションとマネジメント教育」山脇秀樹×藤田勝利×柏野尊徳

2019.03.22

山脇 秀樹

山脇 秀樹

ピーター・ドラッカー経営大学院

藤田 勝利

藤田 勝利

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柏野 尊徳 | Takanori KASHINO

アイリーニ・マネジメント・スクール

日本のリーダーには何が必要か:鼎談04

アメリカやヨーロッパの企業に比べて、なぜ日本の企業はイノベーションで遅れを取っているのか。イノベーションを起こすためには、どのようなマネジメント教育が必要なのか。2019年1月18日、ハーバード出身でドラッカースクール前学長の山脇秀樹教授、ドラッカースクールで学んだ経営コンサルタントの藤田勝利氏、アイリーニ・マネジメント・スクールの柏野尊徳が、イノベーションとマネジメント教育について語り合った。その様子を4回にわたってお伝えしてきた。最後となる4回目は、日本のリーダーにいま何が必要かを考える。

前回(第3回)はこちら

日本のリーダーには何が必要か:鼎談04

ビジョンなき外国人労働者受け入れ拡大

柏野  前回、日本の企業でイノベーションが進まない背景を考えました。そのことに関連して、日本のリーダーに求めらているのはどんなことだと思いますか。

山脇  いま日本ですごく気になっていることがあります。それは外国人労働者の受け入れです。人手不足だから外国人労働者を雇えば良いということですが、そこにビジョンがあるのか疑問に思っています。ドイツに滞在していたとき、ドイツが期限付きののビザでトルコ、ギリシャ、イタリア、スペインから労働者を受け入れるのを見ていました。期限付きとはいえ延長申請ができるので、大多数の人が居残ります。すると、結婚して、子どもができて、子どもはドイツ人と同じ教育を受ける。しかし、大きくなった子どもたちがいま、自分がどこの国の人間なのかわからないという状況が生まれています。

柏野  私も学部時代に移民政策を学びました。いろいろな見方があると思いますが、ドイツやフランスは移民政策に失敗したと私は考えています。ドイツは労働力という短期的な視点で移民を捉えていました。しかし、彼らにも家族がいるわけで「移民先のドイツで一緒に暮らしたい」「ドイツに呼んで定住したい」と思うのは人間なら自然のことです。オーストラリアはそのような視点があったため政策にもうまく反映して移民が阻害されるようなことが避けられています。今の日本の移民議論を見ていると、世界の歴史が証明している失敗例をそのままなぞっているようですごく危険だなと感じています。

山脇  外国人労働者を受け入れるにあたって、日本のリーダーが将来の国のビジョンを考えるような質問をしていないのではないでしょうか。オーストラリアやアメリカは移民の国なので、外国人の受け入れをビジョンとして持っています。しかし、日本は法律の議論くらいしかしていなくて、国がどうなるのかについては全く考えていないように見えますね。


山脇秀樹

山脇 秀樹 (Hideki Yamawaki, Ph.D)
慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学修士課程修了。1982年ハーバード大学経済学博士号取得。ベルギーのルヴァーン大学経済学部教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院客員教授を併任。2000年よりカリフォルニア州クレアモント市にあるクレアモント大学群(The Claremont Colleges)のピーター・ドラッカー経営大学院教授・伊藤チェアー基金教授。2006年度より同校副学長、2009-12年度に学長を務める。専門領域は国際貿易・直接投資・国際企業戦略並びに産業組織。欧米のビジネススクールにおける初の日本人学長。


藤田  日本の場合は、結果的に外国人労働者から選ばれないということも考えられますよね。

山脇  何人かのヨーロッパの国の人達と話した時にも「日本の外国人労働者の受け入れは大丈夫?」と言われました。労働力だけでの視点では排斥されることも想像できますから、日本に来たくないという人もたくさんいるはずです。目先のことだけ考えて、多岐にわたる深い議論もせずに、将来へのビジョンがない。これはマネジメントの話にも通じると思っています。国もそうですし、大企業も、中小企業も、日本はいろいろなレベルでビジョンの重要さが薄れてきているのではないでしょうか。

組織にも個人にもビジョンが必要

藤田  昔の日本企業は組織が大きなビジョンを作って、みんながついていくという感じでした。本来は組織も個人も、両方ともビジョンが必要です。ドラッカーもセルフ・マネジメント(※1)の重要性を説いていて、個人もどのようなビションで組織を選ぶかという発想が必要なはずです。しかし、今の日本ではどちらも欠落していると感じています。

山脇  ビジョンをもう一歩進めると、それが企業戦略に繋がってきます。ディズニーも、スターバックスも、イケアもビジョンがあって、そのビジョンが商品になって、会社全体にも伝わっています。

藤田  個々の社員にも伝わるんですよね。


藤田 勝利 (Katsutoshi Fujita)
1996年上智大学経済学部卒業。住友商事、アクセンチュアに勤務後、アクセンチュアの先輩が立ち上げたベンチャー企業に参画。2002年からピーター・ドラッカー経営大学院に留学、04年に経営学修士号を取得。専攻は経営戦略論とリーダーシップ論。帰国後は2社の組織変革プロジェクトに従事。IT系企業の立ち上げと経営に参画後、2010年に経営コンサルタントとして独立。「マネジメント」「イノベーション」を軸に、次世代経営リーダーの育成と、コンサルティングとコーチングを融合した独自の「経営教育事業」を展開している。


柏野  日本でも創業者はビジョンがあったと思います。本田宗一郎さんは、奥さんが戦後の闇市で買った荷物を苦労して自転車で運んでいるのを見て、エンジンを付けました。それがカブの原型です。目の前に困っている人がいる、その人のためにできることをする。デザイン思考における人間中心の発想ですね。イノベーションの一つのあり方だと思います。

山脇  松下幸之助さんもそんな感じでしょう。

柏野  Googleが自動運転を考えたきっかけも、創業者2人のお母さんが理由です。運転が下手だから、彼女たちがうまく移動できるようにしたいからでした。

山脇  Googleは盲目の人でも車を運転して、ハンバーガーを買いに行けますというビデオを作っていました。あれはデザイン思考的な発想によるビジョンですね。でも、今は少し変わってきました。

柏野  自動運転という発想やそれが普及した際の問題はよく議論されていますがそもそものビジョンが消えている気がします。

サイズ=成長とは限らない

藤田  山脇先生にずっとお聞きしたかったのですが、企業がおかしくなるのはサイズを追い始めたときではないでしょうか。

山脇  確かにそうでですね。

藤田  ソニーは、設立趣旨を読むとやみくもに規模を追わないと書いていて、ある時期までは真に創造的な製品の開発に全社一丸となって没頭している印象がありました。それがサイズを求めていくようになる中で、人も数多く採用し、必要かどうかわからない会社を買い始め、その後の深刻な業績不振に繋がった気がします。

柏野 収益率がいいといった財務諸表上の理由だけで、本業と関係が薄い企業を買収をしているケースもありますね。

山脇  たくさん買収したけれども、いざどうするという時に人材もなくて、マネジメントができないケースもあります。買収自体にビジョンもないし、自社のどこに競争力があるのかもわからなくなって危険ですよね。

藤田  昔は成長とサイズはイコールだった面もあると思いますが、これからの日本企業はどうやっても中国のサイズには勝てないでしょう。

山脇  それは無理ですよね。それと、アメリカでは最近、IPOした後に逆に伸び悩む企業が随分あるのではないかと言われています。上場すると、投資家は成長を期待して投資します。そうなると、会社のマネジメントとしては成長させなくてはいけなくなります。プレッシャーが変わるんですね。

藤田  つまり、イノベーションよりも、直近の利益率をアップすることばかり考えるようになる。日本の企業もそういうパターンですね。

後継者をいかに育てていくか

柏野  これからの時代は、発想をどう変えていくべきでしょうか。


柏野 尊徳 (Takanori Kashino)
慶應義塾大学総合政策学部入学後、3年次に1年間飛び級し同大学院政策・メディア研究科修士課程へ入学・修了。専攻はイノベーション・マネジメント。4回の起業と17回の新規事業創造を経験。スタンフォード大d.schoolにて、イノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の関連テキストや動画、計7教材を監訳し、Web上で無料公開。累計ダウンロード数は16万部超え。岡山大学大学院で3年間の講義を担当後、2013年に一般社団法人Eirene Universityを設立、代表理事就任。スタンフォード大講師との共同トレーニングコース提供や、新事業/製品/サービス開発のコンサルティング、企業研修を実施。


山脇  ドイツでは上場していない家族経営の企業で、良い企業がたくさんあります。このくらいの規模で十分だと考えてマネジメントしているのでしょう。

藤田  日本にも家族経営の優良企業は数多くありますよね。ドラッカー・スクールでもファミリービジネスの研究所(※2)を作っていますから、家族経営の企業のイノベーションは今後のポイントになるかもしれません。

山脇  家族経営の企業をいかに伸ばしていくかは、日本にとってもこれから重要です。しかし問題は、後継者を育てることができるかどうかですね。

藤田  そこが日本に足りないところです。いま、中小企業の廃業率はものすごく高いです。後継者というか、次のリーダーをうまく育てられていないのでしょうね。

山脇  最終的にはマネジメント教育が重要になると思います。ビジョンを持つリーダーを育てられるかどうかです。リーダーにビジョンがなければ、小手先のことだけを考えるようになって、顧客に言われたことだけを聞く発想になります。それではイノベーションは不可能です。ビジョンを作ることがリーダーの大事な仕事の一つだと理解しなければなりません。

藤田  まさに経営学とリベラルアーツ的な観点も重視したマネジメント論、リーダーシップ論とデザイン思考などを融合して、マネジメント教育を進めていく必要がありますね。

柏野  お二人の提案から方向性が見えてきたと思います。長時間にわたって議論していただきまして、ありがとうございました。


  1. セルフ・マネジメント  マネジメント理論で扱う場合は「自分自身という貴重な資源を最大限活かし、成果をあげやすい準備をする」という意味。
  2. Drucker School Global Family Business Institute ドラッカー・スクールにあるグローバルファミリービジネス研究所。ファミリービジネスの問題解決に取り組んでいる。

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