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イノベーションは外の世界で起きる – P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神』-

2018.11.02

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柏野 尊徳 | Takanori KASHINO

アイリーニ・マネジメント・スクール

P.F. ドラッカー著 /上田惇生訳 / ダイヤモンド社

P.F.ドラッカーによる『イノベーションと企業家精神』の原著は1985年に出版されました(Innovation and Entrepreneurship, Harper&Row)。 出版から30年以上経っているため、古典的な存在とも言うことができます。「古いのに役に立つのか?」と思う方もいるかもしれません。でも、そんなことはなく、イノベーション活動に従事する人は必読の本といえます。 この本で紹介されているのは、イノベーションを起こすための7つの機会や、ベンチャーが成功するために欠かせない4つの原則などです。詳細は本を読んで頂くことして、今回は「イノベーション」そのものについて紹介したいと思います。

イノベーションとは何か?

イノベーションを日本語に訳すと技術革新です。この言葉を聞くと「イノベーションは技術からスタートする」「技術者や科学者がイノベーションを起こす」と感じるかも知れません。 しかしドラッカーは「イノベーションは技術の専売特許ではない」と言います。それでは彼はイノベーションをどう定義しているのでしょうか。 ドラッカーによれば「存在する資源に対して、新たな富を生み出す能力を与えるもの」がイノベーションです。それまで存在を認識されながら無視されていたものや、誰も気づいていなかった埋もれた資源を、価値あるものへと変えることでイノベーションが起きます。

顧客の知覚がイノベーションのカギ

顧客の視点に立ってイノベーションを表現し直すなら「既にある資源(技術・知識など)から得られる価値や満足を、全く新しいものに代えて提供するもの」になります。 ここから「イノベーション実践において重要なのは顧客の知覚だ」とわかります。組織が「これはイノベーションだ」と思っていても、人々が「イノベーションである」と認識しなければそれはイノベーションにはなりません。 文字にするとわざわざ言うまでもないように聞こえますが、実際のケースではこの視点が後回しになりがちです。「技術革新」としてイノベーションは訳されましたが、技術や知識といった「組織が持っているもの」からスタートしても、イノベーションは起きません。 イノベーションは外部に対する成果です。もちろん、イノベーションのためには企業や企業家が様々な資源を投下する必要があります。しかし、ユーザーや市場や社会がそれを受け入れた時に、初めてそれがイノベーションとなるのです。

外の世界を知ることから始まる

外部に対する認識の欠如がイノベーションの失敗を招きます。最新の技術や優れたビジネスモデルの存在よりも、顧客や市場や社会が価値を認める内容であるかどうかの方が重要です。 例えば、イノベーションのための方法論であるデザイン思考は他者への共感からスタートします。外の世界を知った上で、自分たちは何ができるのか、どんな価値を提供すべきなのか。その認識が組織内で共有されてから、初めて技術や知識、ビジネスモデルや戦略が生きてきます。 英語に「歩く前に這うことを学ぶ必要がある:You Have To Learn To Crawl Before You Learn To Walk」=「ものには順序がある」ということわざがあります。イノベーションも同じです。 イノベーション活動最初の一歩は、外の世界を知ることから始まります。具体的に何をすべきなのか知りたい方は、是非本を読んでみて下さい。

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