マネジメント

常に行動を改善するセルフ・マネジメントの実践が、新しい価値を生み出す

2020.08.24

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柏野 尊徳 | Takanori KASHINO

アイリーニ・マネジメント・スクール

常に行動を改善するセルフ・マネジメントの実践が、新しい価値を生み出す

イノベーション研究の最先端:世界のトップ・ジャーナル紹介シリーズ -

シリーズ概要

世の中には、最先端かつ高品質の研究結果が掲載される世界トップレベルの論文誌(トップ・ジャーナル)がいくつかあります。このシリーズでは、主に経営学のトップ・ジャーナルに焦点を当て、イノベーションに関わる最先端の研究を紹介します。

本日のトップ・ジャーナル

Strategic Management Journal:SMJ

今回はいつもと少し趣向を変え、論文の内容自体ではなく、世界トップレベルのクオリティーを維持しようとしている論文誌そのものの姿勢について紹介します。

どんな仕事であっても、自分たちの会社や組織のスタンダードを高める姿勢には大きな社会的価値があると考えています。

なぜなら、スタンダードを高めることは、業務プロセスの効率化であったり提供製品やサービスのクオリティ向上と表裏一体だからです。つまり、顧客をはじめとした利害関係者に対して、今よりさらに高い価値を提供することにつながります。

そして、スタンダードを高め続けることは、最終的には業界自体をリードすることにつながっていきます。狭い範囲でも広い範囲でも、イノベーションとは業界をリードする新しい価値を社会に提供することだと考えています。

では、具体的にどのようなことに取り組めば、スタンダートを高めることができるのでしょうか?

遠回りな例に聞こえるかもしれませんが、あるエピソードを紹介したいと思います。2019年にある論文が発表されました。その論文は、2000年から2017年の間にStrategic Management Journal:SMJに掲載された過去52本の質的研究が含まれる論文について、その「透明性」や「再現性」の高さについて分析をしていました。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smj.3015

論文において、研究プロセスの透明性や再現性は重要な要素です。一般的に、透明性や再現性が低い研究は、研究としての価値が低くなります。なぜなら、研究結果を再検証することが難しくなり、再検証ができないということは人類の英知として共有・蓄積する価値があるかどうか判断できないからです。人類の知に貢献するのが研究の大きな役割ですので、透明性や再現性が低いと役割を果たすことがかなり難しくなるということです。

さて、実際に該当論文52本(1本だけ2つのケースが含まれていたので、正確には53ケース)を分析してわかったのは、すべての研究において透明性が低く、再現性があると言える研究は一つもなかったということでした。

つまり、過去にSMJに掲載された論文を引き合いにしながら、該当する研究を今後行う場合には、やり方自体にかなり改善の余地があると指摘をしたわけです。

個人的に面白いと思ったのは、ある意味で「この論文誌(SMJ)の過去の論文、掲載基準や審査基準が甘いんじゃない?」とも言えるような研究を、SMJ自体が重要な研究結果として掲載をしている点です。

つまり、あるA雑誌が「B雑誌ってあまりよくないよね」と言ってるのではなく「私たちA雑誌って、もっとクオリティ高めるためにやれることあるよね」と言っているわけです。

この例はあくまで論文を掲載する媒体に関するエピソードですが、あらゆる仕事において自社/自己のスタンダードを高める上で、自らの行動を改善しようとするセルフ・マネジメントの実践は極めて重要だと感じました。
みなさんの会社では、自社の活動を客観的に見直し、時に批判的な視点で見つめたり議論する機会はどれくらいありますか?

他社よりすぐれた顧客価値を提供するために、自社のスタンダードを高める仕組みはあるでしょうか?

もし、そういった仕組みがまだないのであれば、これを機にぜひ考えて見て下さい。

追伸:
今回紹介した論文の後半には、質的調査における透明性を高める12の基準(例:何をもって理論的飽和にたどり着くかの定義を明示する等)が記載されています。経営学に限らず、質的調査を行っているor行う予定の研究者や学部生/院生にはおすすめの内容となってます(この論文はオープンアクセスとなっているので、無料で読めます)。

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