新学長インタビュー「楽しく、主体的に、加速する」【前編】
新学長、植野紗紀がつくりたい次の未来とは
2024.09.02
創業よりアイリーニ・マネジメント・スクールを率いてきた学長・柏野尊徳に代わり、9月より新学長に就任する植野紗紀。これまで事業統括マネジャーとして講師の採用や育成、オンラインスクールの立ち上げなどを事業全般のディレクションを担ってきた彼女が描く次の未来とは。前半は学長に就任する経緯や、アイリーニがこれから目指す方向性について聞いた。(聞き手・丸山裕理/撮影・山下元気)
アイリーニ・マネジメント・スクール学長 植野紗紀
新学長就任は「想像していなかった」
丸山:まずは新学長の就任、おめでとうございます。率直にどんなお気持ちですか。
植野:そうですね。不安半分、楽しみ半分といった気持ちです。
丸山:新学長になったきっかけは。
植野:前任者であり創業代表でもある柏野がこの夏からシカゴの大学院に進学するのですが、生活の拠点が海外になり、スクールの事業活動に関われる機会も少なくなっているので、実態と対外的に見える立ち位置をあわせた方がいいだろうという所で話が進んでいきました。もともと提案は柏野の方からでしたが、一緒に話し合いながらお互いの強みを活かす形であったり、何よりお客様にとって、どんな体制が一番価値提供ができやすい体制なのかを考えたときに、私が学長を担った方が良いということで就任する事になりました。柏野には海外での研究に集中してもらい、そこで得た知見を今後のプログラムにも反映していく予定です。経営面については、以前法人の理事も務めていただいていた、鈴井さんや福田さんからも定期的にアドバイスをいただきながら進めています。お二人にこの学長交代の考えを伝えたときにも「僕らが脇を固めますから」とありがたいお言葉をいただき、それもひとつの勇気となり決断することができました。会社のメンバーや講師の方々、お客様も含めて、支えられての今があります。
丸山:実際に話を聞いたときはいかがでしたか。
植野:最初は正直、そういう選択肢もあるんだと。想定してなかったパターンというか、ずっと学長は柏野で、スクール規模が大きくなる中で私の立ち位置は多少変わることはあっても、学長という立場に自分がなるというのは想像しておらずびっくりしました。
丸山:そこからの気持ちの変化はありましたか。
植野:そうですね。やっぱり全部自分で決めなきゃいけないという責任感は強くなりました。これまでは新しい企画やアイデアを考えるのが柏野で、私はそれをいろいろな人を巻き込みながら形にしていくのが得意だったりしたので、大まかにはそういう分担で経営を進めていました。これからは何をやるかというところから自分で決めて動かす。そこの責任の広がりというか、今まで役割分担したところを、一旦は自分で全部担ってみるというところが大きな変化だと思います。
目先の利益でなく、未来へのプログラムを
丸山:新学長就任にあたり、大切にしたい思いはありますか。
植野:10年後もっと言えば100年後の日本や世界といった、広い視野と長期の視点で考えたときに、今の教育ってどうなんだろうと常に考えています。たとえばアイリーニで言えば、今はデザイン思考という分野で企業の方々に研修をお届けしていますが、目先の利益が上がるためだけではなく、社員の方の人生にいい影響が出たり、企業に新しい観点を届けることで、その企業がさらに社会に良い価値を生み出せるような、世界にとって良くなる流れをしっかりと意識しながら進めていきたいです。学びがあることでどんな変化が起きて、それによって社会がどうなるか。そうしたものを本質的に見据えた上での教育プログラムを企画し、提供していきたいなと考えています。
目指すのは「楽しく、主体的に、行動と結果が加速していく人」を増やすこと
丸山:スクールについても改めて伺いたいんですけれども、新体制になることで、どういったところが変わっていきそうですか。
植野:元々アイリーニ・マネジメント・スクールというのは、マネジメントスクールと名前を付けている通り、企業の経営層や管理職層、教育現場の先生などを主な対象に、社会の時流を踏まえた上で、マネジメント知識の提供やリーダー育成を行うスクールを作っていきたい、というところが始まりでした。たまたま始まりは「デザイン思考」だったのですが、10年以上続けてきて、だいぶ世の中にも浸透してきたという感覚もあるので、これからは新しいプログラムも取り入れながら、バリエーションを増やすことを考えています。対象は変わらず、企業の経営層や管理職層、教育現場の先生など、人に与える影響力が大きい方々が、もっとより良くなることを支援するようなプログラムを提供していきたいですね。またこれまでのお客様の傾向として、学習意欲がとても高い方や好奇心が強い方が多く、ご自身で普段から学習されている方も多いので、そういった方々にも新鮮な視点やテーマを届けていけるようなスクールでありたいなと考えています。
丸山:具体的に何か今考えてることはありますか。
植野:そうですね。これまでやってるデザイン思考は基礎スキルとマインドセットを伝えるということが中心だったのですが、お客様の声を聞くと、実践のときに困っている方が多いんですね。例えば、社内でもデザイン思考教育を内製化されている企業の人材開発本部の方が「デザイン思考の研修は今は私たちでもできるのですが、ファシリテーションまでは教えられなくて・・」「現場で実際にプロジェクトを進めていく時に、どうやってデザイン思考をメンバーに教えていったらいいですが、という相談が私たち人材開発本部にくるんです」と、デザイン思考を使ってチームをリードしていく人の育成や、実際のプロジェクトのファシリテーション支援に困っていることがわかりました。ですので、最近需要があって導入を進めているプログラムが「デザイン思考ファシリテーション実践クラス」というものです。デザイン思考をツールの一つとして使いこなして、どういう成果を出すかとか、どういう事業を作っていくかというところでチームのファシリテーション力を上げる研修です。実践に特化というか、トレーニングに近い感じですね。テニスの初心者がやり方を覚えて、打てるようにはなってきたけど、試合に出てみて、また課題が見つかった。だったら試合で勝てるようなトレーニングが必要だよねと。そのトレーニングの位置にあたる研修プログラムです。
また、新しい取り組みとしては「システミックデザイン」という、デザイン思考とシステム思考を掛け合わせたようなプログラムも動きを進めています。これはアイリーニの講師の飯盛さんが研究している専門分野なのですが、これからの時代、サステナブル経営や環境に優しい企業経営が大事だという考え方があるので、それをどうやって実現していくかの手法を学べるものです。一昨年、スタンフォード大学にもサステナブルをテーマとした学部が生まれていて、私も昨年見学に行ってきましたが、世界でこれから大事なテーマになっていくと思うので、アイリーニでも企業と一緒に研究を進めながら、プログラム提供をはじめています。その他、自己分析ツールを使った「ストレングス・メンタリング」という組織のリーダーやマネジャーのための強み活用を目的としたメンタリングや、そこから派生した「チームビルディング研修」。全く新しい取り組みとして、親子向けのプログラムなどもいま少し企画を進めています。
丸山:様々な新しい取り組みをするに当たって大切にしている想いがあるそうですね。
植野:私が大学時代から一貫して興味があることが「人のモチベーションと才能発揮」という点にありまして。人ってみんな必ず個性や生まれ持った力があって、それを解放してあげたいというか、のびのびと、生き生き飛び立てるように支援することが好きなんですね。人ってモチベーションのアップダウンもありますよね。好きなことでもモチベーション下がるときもある。そういう中で、モチベーションの高いところ、つまり何か主体的に、前のめりになっているときの楽しい時間を増やせる手助けがしたい。「人の可能性を最大化したい」という思いがずっと根本にあるので、中心の軸として大事にしたいです。決して苦しく頑張るではなくて、楽しく、主体的に、行動と結果が加速していく。そういうことに繋がる支援をたくさんしたいと思います。
丸山:今の社会の中ではなかなかできてないという課題感をお持ちなのでしょうか。
植野:そうですね。わかりやすいところで言うと、合わない仕事をしている人、苦手なことを一生懸命やり続けている人が多いなということを感じています。まだまだ「労働は苦役なり」の考えも根強いですよね。私も昔そうでしたし、友人の話を聞いても感じたりしていて、もっとその人に合った場所や活躍の仕方がありそうだなと。もっと言うと、その人に必要なスキルをちゃんとつけられているかどうかとか、まだまだできることはある。そうすれば、働くことが楽しい人がもっと増えるのかなと思います。
丸山:自分にどんな仕事が合っているのか、また自分の強みが発揮できているのかって、自身じゃなかなか気づけないですよね。
植野:はい。そういったことも今後広げていきたいと思っていて、私は2020年にGallup認定ストレングスコーチの資格を取得して、マネジメント層やチームリーダー向けに自己理解を促し、ご自身の強みを活用するためのメンタリングや、組織向けにチームのパフォーマンス向上を目的としたチームビルディング研修も提供しています。「ストレングスファインダー」という自己分析ツールを使いながら、何が得意で、どんな影響力を発揮できるかというのを読み解くセッションです。さらにはその強みを生かすにはどうすれば良いかというテーマでディスカッションさせていただいたりとか、チームでの補完関係も大事だったりもするので、リーダーだけでなく、チーム全員に対して研修を提供するということも始めています。
デザイン思考を原点に、時流や社会の課題に合わせたプログラムへ広がりを見せるアイリーニ・マネジメント・スクール。そこには学ぶ誰もが「のびのびと、生き生き飛び立てるように」という植野の思いが込められていた。後半は「人の可能性を最大化したい」と思うに至った幼少期の経験から母になった現在まで、彼女の人柄や思いに触れる。
-> (後半に続く)「楽しく、主体的に、加速する」。新学長、植野紗紀がつくりたい次の未来【後編】9月9日公開予定
-> リーダーのための強みを活かした活動を支援する「ストレングス・メンタリング」先行価格で受付中
植野 紗紀 (Saki Ueno)
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、人材育成の分野でキャリアを積む。組織人事コンサルティング会社のリンクアンドモチベーション、保育園グループの本部人事を経て現職。「デザイン思考」と「メンタリング」を専門とし、企業と個人の持続的な成長を支援する事業を展開。組織開発では80社以上の法人、個人向けサポートでは1300時間以上の経験を持つ。顧客からは「主体的な人材が育つ」との評価。二児の母。
丸山 裕里 (Yuri Maruyama)
フリーアナウンサー、フォトジャーナリスト。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科修了。広告関連会社を経て2013年、フリーアナウンサーへ。情報番組や経済番組を担当し、これまで政財界からスポーツ界まで延べ1,000名以上にインタビュー。ライフワークではパラスポーツの取材を続け、東京2020パラリンピック、パリ2024パラリンピックを現地取材。二児の母。現在、LuckyFM『ダイバーシティニュース』にキャスター出演中。