チームのリーダーや事業部の責任者のように、イノベーション活動を牽引する人には大きく異なる2つの役割が求められます。
例えばチームリーダーであれば、メンバーの多様性を引き出しながら、様々な視点で顧客の課題や社会変化を理解し、多くのビジネスアイデアが生まれるようにチーム活動を促進することです。
一方、事業アイデアが生み出されたあとは、実現性や収益性といった観点からアイデアを絞り込み、例え反対者がいたとしても明確な意思決定をし、プロジェクトを牽引するという役割もあります。
言い換えると、「発散 vs 収束」「自由 vs 統制」という、必要なマインドセットやコミュニケーションスキルが異なる2つのモードに従事します。
パラドキシカル・リーダーシップ
このような現象は、一見すると矛盾する原則・行動を調和させる必要があることから「パラドキシカル・リーダーシップ (Paradoxicial Leadership)」と言われています。
日本語で「パラドックス」の意味を簡潔に表現する単語はなさそうですが、近いことわざは「あちらを立てればこちらが立たず」でしょうか。このことわざは両立が不可能な状態を指すときによく使われると思いますが、パラドックスは、一見すると不可能にも見えるが実は両立できる状態となります。
パラドキシカル・リーダーシップ理論に関する研究はいくつかあります。例えば、先日参加した経営学の国際学会(AOM 2023)では、リーダーの発散/受容的な行動スタイルに焦点を当てた「ファシリテーターとしてのリーダー」という考え方と関連研究が紹介されていました。
つまり、決断を下して牽引 (lead) する狭い意味での「リーダー」としての役割だけでなく、その前段階で重要となる、チームメンバーの創造性やアイデア出しを促進 (facilitate) させる「ファシリテーター」としての役割です。
ファシリテーターとしてのスキル
イノベーション活動において、プロジェクトの責任者や関係者がどの程度ファシリテーターとしてのスキル/技術を持っているかは極めて重要です。
なぜなら、チームの自由なコミュニケーションが促進されない状態で、イノベーションの種である創造的で枠を超えたアイデアを出すのはとても難しくなります。
筋の良くないアイデアを抱えてプロジェクトを進めても、良い結果につながる可能性はほぼゼロでしょう。
チームの自由なコミュニケーションを促進させる方法は様々ですが、特に重要な視点はメンバーの感情に対する理解と、チーム活動に対する効果的なフィードバック実施の2つです。
次回は、主にチームメンバーのモチベーションに対する知見を紹介します。「パラドキシカル・リーダーシップ」や「ファシリテーターとしての役割」に対する理解を深めるきっかけになれば幸いです。
新しい挑戦の中で上下するチームのモチベーション 前半:パラドキシカル・リーダーシップ02
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