2020/07/07

自動車メーカーの時価総額1位はトヨタからテスラへ:イノベーションの源泉となる企業文化

1. テスラが成長し、トヨタは伸び悩む?

2020年1月にフォルクス・ワーゲンを抜いて世界2位となっていたテスラが、7月1日にさらにトヨタを抜きました。1日時点での時価総額は約22兆2700億円、世界1位の自動車メーカーになります。(参考:テスラ、時価総額でトヨタ上回る−世界最大の自動車メーカーに

参考:時価総額は、その企業の株価に対して発行済み株式の総数をかけたものです。例えば、1株1万円の株を1,000株発行していれば、その企業の時価総額は1,000万円となります。

今回の現象が面白い理由は、「今後テスラは相対的に伸びていき、トヨタは相対的に伸び悩む」と市場が評価してる可能性があるということです。そして、その背景にはトヨタの企業文化が関連しているかもしれません。

2. 株価を考える3つの視点

ちなみに、株価はその時々の瞬間的な価格であり、一時的に高くなったり低くなったりと波があります。絶対的な株価決定メカニズムは存在しませんが、まずは大きな視点として以下の3つで考えれば分かりやすくなります。

 1) 過去の実績:資産はどれくらいあるか?
 2) 現在の調子: 利益はどれくらい出ているか? 
 3) 将来の伸びしろ:資産や利益が今後どれくらい増えるか? 

細かい計算を一旦脇において、財務諸表ベースでテスラとトヨタを比較すると、1)と2)に関してはトヨタが有利です。

1) 財務諸表における自己資産(純資産)はトヨタはテスラの約3,000倍です。2) 直近1年間の純利益は、テスラが赤字状態のためそもそも比較になりません。

Tesla Inc (TSLA) Financials | Morningstar

Toyota Motor Corp (7203) Financials | Morningstar

すると、テスラがトヨタよりも評価される大きな要因は「3)将来どれだけ伸びそうか?」にあると言えます。

例えば、自動車業界の将来トレンドに「電気自動車」や「自動運転技術」があります。テスラは過去に様々な不祥事や事故を起こしてきてはいますが、電気自動車の提供や自動運転技術の開発に焦点を当てた事業展開をしているため、将来の成長が期待できそうです。

3. テスラの評価が高いのか、トヨタの評価が低いのか?

ただし、テスラの将来性が高いとしても、現時点で圧倒的な差があるトヨタを超えるほどではないようにも感じます。テスラがトヨタの市場評価より高いという見方もできますが、トヨタに対する市場評価がテスラより低いだけという見方もできます。株価は相対的なものだからです。

トヨタが手掛ける自動車のうち、電気自動車を含む電動車の販売割合は全体の30%未満です。さらに、スポーツ車のコンセプト時に豊田章男社長も言及している『運転する喜び』が企業文化の一つとして存在します。(参考:「最近のトヨタになかったクルマ」 章男社長が拳を突き上げ喜びを爆発させた!

トヨタに限らず、ホンダのような自動車メーカーにとって、その会社で働く人たちが「運転する喜び」に意義を見出していることは、優れた成果を出す上で重要な要因でした。しかし、これからは違うかもしれません。

4. 企業文化と新事業

今後、自動運転がメジャーな機能になっていけば、「運転する喜び」を重視する企業文化自体が、新しい事業で成果を出す上での障害になります。なぜなら、自動運転の普及によって、運転に興味がない人や運転したくない人の行動が、これからの自動車市場を形作るからです。

運転「しない」喜びで構成される市場の方が、運転「する」喜びで構成される市場より大きくなるのです。

このことを1990年代の写真フィルム業界を例に考えてみましょう。世界をリードするデジタル・カメラのコア技術を持ちながら活用できずに倒産したコダックもあれば、事業ドメイン自体を一新して当時より成長した富士フイルムもあります。(参考:ダイナミック・ケイパビリティと経営戦略論

コダックの凋落は企業文化のみで説明がつくほど簡単ではありませんが、仮に「アナログ写真を撮る喜び」という企業文化が強ければ、優れたデジタル技術が社内にあっても事業成果を出すのは難しいことが想像できます。

同じように「車を運転する喜び」という企業文化が強ければ強いほど、「車を運転しない喜び」を提供する自動運転の事業において、世界をリードする存在になるのはかなり難しくなります。

5. まとめ

時価総額はその時々の市場評価の目安でしかありませんが、企業文化はイノベーションの源泉です。何を重視し何を切り捨てるのかを決める企業文化は、固定的のものでなく変えていくことが可能です。

これからのテスラの動向はもちろん興味深いものですが、それはトヨタも同じです。今後、トヨタがコダックのように凋落してしまうのか、富士フイルムのように新しい道を切り開いていくのか、企業文化を含めたトヨタの動きに注目したいと思います。


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イノベーション 柏野尊徳 企業文化

この記事の執筆者

Takanori Kashino

Takanori Kashino

一般社団法人Eirene University 創業者/代表理事。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、専攻はイノベーション・マネジメント。スタンフォード大d.schoolでデザイン思考を学ぶ。同大学講師との共同トレーニングコース提供や、新事業開発のコンサルティング、関連研修を実施。クライアント先はKDDI、Adobe、日本テレビ放送網、京都大学など。

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