2020/08/10

事業のピボット/撤退のタイミングはどうやって決めるべきか?

事業のピボット/撤退のタイミングはどうやって決めるべきか?

- イノベーション研究の最先端:世界のトップ・ジャーナル紹介シリーズ -

シリーズ概要

世の中には、最先端かつ高品質の研究結果が掲載される世界トップレベルの論文誌(トップ・ジャーナル)がいくつかあります。このシリーズでは、主に経営学のトップ・ジャーナルに焦点を当て、イノベーションに関わる最先端の研究を紹介します。

本日のトップ・ジャーナル

Strategic Management Journal:SMJ

イノベーションを起こす上で重要な考え方の一つに「ピボット」があります。ピボットとは、想定していた戦略や事業がうまく機能しなかった時に、予定を変更して新しい戦略や事業を開発したりスタートすることを指します。

例えば、世界トップシェアをマイクロソフト社のTeamsと競い合っている「Slack」も、ピボットにより誕生したコラボレーション・ソフトウェアです。

Slackが世に出る前、Slackの創業者は「Glitch」と呼ばれるオンラインゲームを開発していましたが、ゲーム自体は商業的な成果を出せず失敗に終わりました。

実は、このゲームの開発チームがが社内コミュニケーション用に利用したのが、Slackの原形となるシステムでした。

ゲーム開発には失敗したが、そのゲーム開発を支えていたシステム自体を新事業としてローンチし、結果として世界中で利用される状態になったわけです。

このように、イノベーション活動に取り組む企業がピボットによって当初の戦略や事業を柔軟に変更することは重要です。

しかし、ピボットをするかどうかを「どうやって」決めたらいいのでしょうか?

最もシンプルで多くの企業が採用しているのは、「2年以内に黒字化しなければ撤退する」といった形で、期間や金額を指標にする方法です。

この方法は誰でも簡単に判断ができる一方で、やや機械的過ぎて大きなイノベーションのチャンスを逃す危険性もあります。

極端な事例ですが、1980年から発売され、世界中で毎年1,000億以上を安定的に稼ぎ続けている3M社のポストイットは、最初のR&Dの期間を含むと市場投入まで10年以上かかっています。

判断基準が機械的すぎると、このような世紀のイノベーションを逃すかもしれません。

…とはいえ、すべてのプロジェクトを10年間育てることは現実的ではないですよね。

効果的にピボットをするため、期間や金額に加えて、何か有効な考え方は無いのでしょうか?

ここで紹介したいのが、エネルギー関連企業7社が関わった93の戦略的意思決定を分析したピボットに関する研究です。この研究結果は、2020年1月に発表されました。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/smj.3131

研究の結果わかったのは、戦略的にピボットを行っている会社では、撤退基準にて「当初の戦略を支える信念と矛盾する情報を手にしたとき」が設定されているとわかりました。

例えば、ある製造メーカーでは、「ポータブル」が売りである新製品の開発を想定していましたが、主要顧客の実際の様子を知った結果、その製品が彼らのスーツケースには収まりきらないとわかりました。トホホ、ですね。。

結果として、販売を開始する前にその事業は撤退すると決まりました。

まとめると、自社の関係者だけで「いける」と思っていた戦略やコンセプトが、実際の顧客の行動や日常と噛み合わないと分かった時、「当初の戦略に無理があった」と判断して事業自体を止める、という流れになります。

上記の撤退基準は、期間や金額といった定量的に評価できる指標とは異なる、定性的な指標です。

もし、自社のプロジェクトをいつ止めるかについて、定量的な指標しかないのであれば、定性的な指標として「当初の想定と矛盾する情報が出てきたら撤退する」という基準も加えてみてもいいかもしれません。

もしくは、自社オリジナルの定性的な撤退基準を考えてみるのはいかがでしょうか?


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イノベーション 柏野尊徳 ピボット

この記事の執筆者

Takanori Kashino

Takanori Kashino

一般社団法人Eirene University 創業者/代表理事。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、専攻はイノベーション・マネジメント。スタンフォード大d.schoolでデザイン思考を学ぶ。同大学講師との共同トレーニングコース提供や、新事業開発のコンサルティング、関連研修を実施。クライアント先はKDDI、Adobe、日本テレビ放送網、京都大学など。

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