2020/08/17

イノベーションと多様性の新しい関係

イノベーションと多様性の新しい関係

- イノベーション研究の最先端:世界のトップ・ジャーナル紹介シリーズ -

シリーズ概要

世の中には、最先端かつ高品質の研究結果が掲載される世界トップレベルの論文誌(トップ・ジャーナル)がいくつかあります。このシリーズでは、主に経営学のトップ・ジャーナルに焦点を当て、イノベーションに関わる最先端の研究を紹介します。

本日のトップ・ジャーナル

Academy of Management Journal:AMJ

イノベーションを実現する上で、重要とされているのが関係者の多様性です。
多様性には、色々な切り口があります。

例えば、年齢/国籍/性別といったデモグラフィック要素で考える場合もありますし、専門知識や専門領域といった職務に直結するとタスクに直結する要素で考える場合もあります。

デモグラフィック型(年齢/国籍/性別等)の多様性が高い場合、成果に対して悪い影響があるケースが報告されています。例えば、チームの中で「自分に近い人」「自分とは違う人」という区分けが各自で進み、情報があまり共有されず、成果に対するネガティブな効果を生む、という流れです。

一方で、タスク型(専門知識/職務等)の多様性が高い場合は、成果に対して良い影響があるとする研究があります。ただ、「特許の数が増えたかどうか」といった技術的側面で成果を設定した場合、タスク型であっても特に多様性は関係がなかったとする別の研究結果もあります。

まとめると、年齢や国籍などのデモグラフィック型の多様性を高めるよりは、学部や大学院で専攻した領域(工学、ビジネス、コンピューターサイエンス等)や担当職務(エンジニア、マーケティング、オペレーション等)といったタスク型の多様性を高めるほうが、やや成果につながるということになります。

このような状況の中、関係者の専門領域(大学/大学院で何を専攻していたか)を多様性の基準として、イノベーション活動の「どんなステージ」で多様性が成果につながるのかを明らかにした研究結果が2020年2月に発表されました。
https://journals.aom.org/doi/full/10.5465/amj.2017.0741

この研究では、イノベーション活動に関わる人達をトップ・マネジメント・チームとミドル・マネジメント・チームの2つに分けて分析が行われました。

前者のトップ・マネジメント・チームはCEOを含む経営陣となります。このチームメンバーは、どの領域で新しい価値をもたらすのかやどれくらいの資源を投下するのかといったイノベーション活動の入口に影響を与えます。

一方のミドル・マネジメント・チームは、実際の新製品/サービスづくりにコミットする開発メンバーです。このチームは、市場では既に存在するが所属企業にとって初となる商品を手掛けたり、市場にもまだ存在していない新しいものを手掛ける、イノベーション活動の出口に影響を与えます。

従業員数は10名から最大2万人弱と幅広く、製造業もサービス業も含まれるスウェーデン企業計486社を対象に研究した結果、トップ・チームの多様性はイノベーション活動に取り組むかどうかを決める上では重要でしたが、実際のアウトプットがイノベーティブになるかどうかは関係ありませんでした。

一方で、ミドル・チームの多様性は、イノベーション活動が多く生まれるかどうかや企業にとって新しいプロダクトを生み出すかどうかには関係ありませんでしたが、市場にまだ存在していない新しいものをつくりだす上ではプラスの影響があるとわかりました。

つまり、トップチームの多様性が高ければイノベーション活動に対する積極的にリソース投下が決定されやすく、その下のミドルチームの多様性が高いと、市場初の新しい製品が生まれやすくなる、ということです。

逆に言えば、トップ・マネジメント・チームの多様性が低い(=同質性が高い)と、イノベーション活動が積極的に始まらず、ミドル・マネジメント・チームも同様の場合は市場初のプロダクトは生まれづらいということになります。

なお、今回紹介した論文は、スウェーデン企業関係者の学歴を元にした研究結果ですが、日本の場合は大学の専攻と実際の職務に整合性がないケースが比較的多いと思われるため、学歴よりもその人が実質的に保有している専門知識で比較するほうがいいでしょう。(例:法学部を卒業したが、法務には関わらず入社から10年以上マーケティングを担当している等)

いずれにせよ、高い多様性をイノベーション活動の入口と出口の両方で担保することは、良い成果を得る上でも重要である、ということですね。

みなさんの会社でも、トップ・マネジメント・チームとミドル・マネジメント・チームの多様性について、どのような専門知識や経験を持った人たちで固まっているのか、改めて掘り下げてみてはいかがでしょうか?


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この記事の執筆者

Takanori Kashino

Takanori Kashino

一般社団法人Eirene University 創業者/代表理事。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了、専攻はイノベーション・マネジメント。スタンフォード大d.schoolでデザイン思考を学ぶ。同大学講師との共同トレーニングコース提供や、新事業開発のコンサルティング、関連研修を実施。クライアント先はKDDI、Adobe、日本テレビ放送網、京都大学など。

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