日本の企業はなぜイノベーションが進まないのか

(第3回「イノベーションとマネジメント教育」山脇秀樹×藤田勝利×柏野尊徳)


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アメリカやヨーロッパの企業に比べて、なぜ日本の企業はイノベーションで遅れを取っているのか。イノベーションを起こすためには、どのようなマネジメント教育が必要なのか。2019年1月18日、ハーバード出身でドラッカースクール前学長の山脇秀樹教授、ドラッカースクールで学んだ経営コンサルタントの藤田勝利氏、アイリーニ・マネジメント・スクールの柏野尊徳が、イノベーションとマネジメント教育について語り合った。第3回は、日本の企業でイノベーションが進まない背景について考える。

世界に比べて年齢が高い日本のCEO

柏野  以前、ある国内製造メーカーの経営者と取締役数人に対して講義をした時に、日本の企業でイノベーションが進まない理由を痛感したことがあります。「イノベーションには先行投資が欠かせません。小さいリスクを分散的に取りながら、ポートフォリの発想で成果を出しましょう」と話したのですが、すごく評判が悪くて。その場をアレンジしてくれた社内の方に後で様子を聞いたら、「彼らはあと2、3年穏便に過ごせば退職金がもらえる。少しでもリスクがあるようなことをしてキャリアに傷をつけたくない」と言われました。

山脇  それはいま日本の企業が抱えている一番大きな問題ですね。日本のCEOは年齢が非常に高い。大企業だけでなく、中小企業もそうです。世界で比べ物にならないくらい断トツに高いです。

柏野  日経225のトップに限定すると平均年齢が67-8歳です。任期は長くても5年ほど。そうなると10年後のことすら考えるのは難しくなってきます。

藤田  人生100年時代と言われているのに、50代ですでにゴールを見ている感じがします。企業の管理職で訳がわからないのは、例えば財閥系の子会社の部長で「娘の結婚式にこの肩書きで出たい」と言っている人。気持ちはわからないでもないですが、全く意味がない話です。

柏野  父親としてはいい人なのかもしれませんが、管理職としては視野が狭すぎますね。マネージャークラスが保身しか考えていない状態で、イノベーションを起こすのは極めて難しいでしょう。

世界の潮流に追いつけていない日本

山脇  経営者が年を取ってくると、世界の潮流に追いつけなくなる問題もあります。アメリカではいま、経済面でも文化面でもアジア系の人たちの勢いがすごい。アジア系の人口は徐々に増えていて、大卒の比率は白人の38パーセントに対して50パーセントと高く、彼らの多くがマネジメントの職についています。歯医者も5人に1人がアジア系。人口全体から見ると決して多くないものの経済的活動は目立っています。文化面では、KーPOPアーティストのBTS(防弾少年団)のアルバムが、2018年5月にビルボードの1位を獲得しました。アジア圏のアーティストがアルバムチャートでトップを取るのは初めてです。


山脇秀樹

山脇 秀樹 (Hideki Yamawaki, Ph.D)
慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院経済学修士課程修了。1982年ハーバード大学経済学博士号取得。ベルギーのルヴァーン大学経済学部教授、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン経営大学院客員教授を併任。2000年よりカリフォルニア州クレアモント市にあるクレアモント大学群(The Claremont Colleges)のピーター・ドラッカー経営大学院教授・伊藤チェアー基金教授。2006年度より同校副学長、2009-12年度に学長を務める。専門領域は国際貿易・直接投資・国際企業戦略並びに産業組織。欧米のビジネススクールにおける初の日本人学長。


藤田  英語で歌っているんですか?

山脇  韓国語と英語です。歌というよりは、踊りで惹きつけているみたいです。BTSは2016年12月31日のニューヨークタイムズのカウントダウンにも出演しました。昨年はロンドン、ニューヨークと公演して、ロサンゼルスでは5回の公演のチケットが全て売り切れでした。アジア系の女子だけでなくヒスパニック系・白人の女子にも人気です。スケールはまだ小さいですが、日本の One OK Rockも北米・ヨーロッパのティーンエージャーに人気がでています。アジア系の男の子のロックバンドがアメリカ・ヨーロッパで人気を呼ぶなんて、ひと昔では考えられないことですね。

柏野  すごいですね。

山脇  同じ現象は、2018年に公開された『Crazy Rich Asians』(※1)という映画にも現れています。ラブコメのような内容ですが、ハリウッドが制作した映画では初めて、99.9%の出演者がアジア系。主演の女優は台湾系アメリカ人で、アジア系の主演は25年ぶりだそうです。この映画は人種の壁を超えてヒットしました。アメリカでは他にも、小籠包で有名な台湾の鼎泰豊がすごい勢いで出店していたり、ラーメン屋が急激に増えたりしています。アジア系の若い人たちのエネルギーが浸透していますね。

藤田  私がアメリカにいた時は、ラーメンはほとんどありませんでした。

山脇  その頃の子どもがいま18歳くらいになって、普通にラーメン屋に通っていますよ。それくらい速いスピードで変化しています。ドラッカーが言う「すでに起こった未来」です。企業のトップは世界で何が起きているのかを理解していないと、追いつけなくなったらおしまいでしょう。

柏野  そう言われると、日本の企業はそもそも世界の動きを把握できているのかという点が気になりますね。

藤田 日本企業のマネジメント層の方々とお話ししていて、社外で、世界で起きている変化に関心が低いと感じることは多々あります。

山脇  関心が低いのと、おそらく観察ができていないのでしょう。去年、日本からアメリカに来た、ある企業の人が「テスラの車は全然走っていないですね。シリコンバレーにしかないのですか」と言っていましたが、実際は至る所で走っています。

柏野  世の中の変化が見えていないわけですね。シリコンバレーはたしかにイノベーションの代表的地域ですが、それだけが全てではないですしね。アメリカ以外に目を向ければ、人口一人あたりのベンチャー投資額が世界1位のイスラエルなど、注目すべき現象は世界の様々なところにあると思います。

山脇  日本の中にずっといると、日々の忙しさに気をとられて、世界のことはどうでもよくなるのかもしれません。

離職の理由は「未来を描けない」

藤田  その弊害は、日本の企業の現場で如実に現れていると思います。変化に対応できずに業績がきつくなった企業は、現場が絞られて悲鳴を上げています。


藤田 勝利 (Katsutoshi Fujita)
1996年上智大学経済学部卒業。住友商事、アクセンチュアに勤務後、アクセンチュアの先輩が立ち上げたベンチャー企業に参画。2002年からピーター・ドラッカー経営大学院に留学、04年に経営学修士号を取得。専攻は経営戦略論とリーダーシップ論。帰国後は2社の組織変革プロジェクトに従事。IT系企業の立ち上げと経営に参画後、2010年に経営コンサルタントとして独立。「マネジメント」「イノベーション」を軸に、次世代経営リーダーの育成と、コンサルティングとコーチングを融合した独自の「経営教育事業」を展開している。


柏野  そうなんですね。

藤田  勤勉な社員ほど搾り取られて限界にきています。最近は有名な企業でも離職率が高くなっています。これほどの有名企業を辞めてしまうのか、と驚くことも多いです。しかも、辞める社員のコメントの多くが「未来を感じなくなった」というものです。

山脇  それはものすごく厳しい言葉です。それくらい状況が悪いということですね。

藤田  他にやりたいことがあるというよりも、このまま会社にいても10年後に自分の未来が描けないと思っている人が一番多いのではないでしょうか。

柏野  沈んでいる船に乗るのは誰でも嫌ですね(笑)

藤田  数字や業績管理が主業務になり、そもそもの仕事の使命や目的が見えなくなっているのもあるようです。先日、商社の子会社の役員の方から聞いた話では、もう本体にはトレーディング業務が殆どないので、子会社に行かないと現場の手触り感のある実務が学べないという状況だそうです。

山脇  そんなに変化しているのですか。

藤田  親会社本体は事業会社の管理などの業務が多く、実務から離れていると言う人は多いですね。

ゼロから作り上げるのが苦手な日本

柏野  するとイノベーションのために何が必要かわからなくなりますね。ある商社で講演した時に「我が社の新事業の方向性を教えてください」と言われました。「距離のあるモノ同士を結びつけることが商社の価値ですよね。遠くに感じるものを身近にする、という視点が必要だと思います」と答たら、質問者から「いいですね」と言われました。ふと思ったのですが、本来は役員が考える内容ですよね(笑)。


柏野 尊徳 (Takanori Kashino)
慶應義塾大学総合政策学部入学後、3年次に1年間飛び級し同大学院政策・メディア研究科修士課程へ入学・修了。専攻はイノベーション・マネジメント。4回の起業と17回の新規事業創造を経験。スタンフォード大d.schoolにて、イノベーション手法:デザイン思考を学ぶ。同大学発行の関連テキストや動画、計7教材を監訳し、Web上で無料公開。累計ダウンロード数は16万部超え。岡山大学大学院で3年間の講義を担当後、2013年に一般社団法人Eirene Universityを設立、代表理事就任。スタンフォード大講師との共同トレーニングコース提供や、新事業/製品/サービス開発のコンサルティング、企業研修を実施。


山脇  それは1億円の答えですよ。請求書を出さないと(笑)。

藤田  そういう質問をする人はすごく多いですね。日本の企業は経営層も社員も、哲学的に考える問いに対してご自身で思考して信念を持った答えを出すということが苦手な人が多いように感じます。すぐに他社の事例や答えを聞きたがる傾向があります。

柏野  歴史的に見て、日本は新しい制度や概念を自分たちでゼロから作ることを避けてきた傾向があると思います。

山脇  それは昔から言われています。

柏野  明治でも銀行制度はアメリカ、憲法はドイツ、教育制度もまずはフランスなど、参考にしたと言うよりも海外で証明されたコンセプトをそのまま取り入れた感じです。大きな視点でシステムや制度、文化を捉える経験が少ないのかもしれません。

山脇  多分そうですね。


柏野 他国や他社が考えたアイデアを模倣するというのも一つの戦略ですが、他者追従の発想しかないのであれば厳しい状況に追い込まれるでしょう。

企業のトップこそマネジメント教育が必要

山脇  リーダーになる人たちは世界を幅広く見て、いろいろなことがどのように変化しているのかを深く知る姿勢がなければ、やがてマネジメントはできなくなります。

藤田  役員クラスに就いている方と話しても、そういう姿勢を感じる人はそれほど多くないです。事業の数字のことはよく話しますけど。

柏野  自分たちはもう教育を受けなくてもいいというスタンスなのでしょうか。

藤田  そうかもしれません。現場の人にだけマネジメント教育を受けさせています。しかし、現場の人からは「このことを本当に役員や上の役職の人に話してください」と言われますね。企業のトップこそ、マネジメント教育を受けるべきだと思います。

山脇  日本の企業はものづくりのデザインはできるけれども、ストラテジーや組織とつなげるところが弱いです。大きな意味では企業のカルチャーまで変えていかないと、イノベーションは難しいでしょうね。

(第4回に続く)

※1 『Crazy Rich Asians』2018年公開。日本でのタイトルは『クレイジー・リッチ!』。

※2 https://www.spencerstuart.com/~/media/pdf%20files/research%20and%20insight%20pdfs/ssbi_jpn2016_web.pdf



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