【集団における個人のパフォーマンスとは】声援で大活躍する人と綱引きで休憩する人

小学校の頃のかけっこ大会で、「本番では普段よりもタイムが速く走れて、自己記録達成をした」なんて経験ありませんでしたか?1人で目的のタイムを更新しようとするよりも、競争相手や声援の中だと自分のパフォーマンスが向上する経験は誰にでも一度や二度はあるのではないでしょうか? 一方、小学校の綱引き大会の写真を見ると、とても頑張っている表情で綱を引いている子と、その隣にとても涼しい顔で綱を引いている子がいますよね?先程の例とは反対に、集団の中で個人のパフォーマンスが逆に低下してしまうという経験も誰にでもあるのではないでしょうか? どうやら私達は意識的にも無意識的にも、他者の存在から少なからず影響を受けているようです。個人的な話ならともかく、日頃からチームのマネージメントを行っている方にとって、チームに所属する個人のパフォーマンスを管理することはとても重要なポイントになるのではないでしょうか?

チームのパフォーマンスをコントロールする「社会的促進」と「社会的手抜き」

先程の例の他にも、皆さん自身もチームで物事を成し遂げたときに自分のパフォーマンスが向上される体験や、一方でパフォーマンスが落ちてしまうことを体験されたことがあるかと思います。この記事では、集団における個人のパフォーマンスに対する理解を深めることを目的に、関連する社会心理学の理論をご紹介します! そもそも、今回紹介する分野である社会心理学とは一体何でしょうか?社会心理学という分野は、心理学と社会学から誕生した分野で、社会における個人の心理学を対象とします。その為、チームの中の個人を理解するといった側面で、社会心理学にはチームマネージメントに役に立つ理論が沢山あります。チームをマネージしてイノベーションを起こそうとしている方に是非学んで頂きたい学問ですね!その中でも、こちらの記事は「社会的促進」や「社会的手抜き」という概念を紹介します。「社会的促進」とは、他者の存在が行為を促進したり、抑制したりすることを指します。一方で、「社会的手抜き」とは、集団で共同作業を行う時に一人当たりのパフォーマンスが人数の増加に伴って低下する現象を指します。この2つの理論をより詳しく見てみましょう!

「社会的促進」

画像引用: http://bodyhack.jp/mentaltraining/947/
そもそもの始まりは、ノーマン・トリプレットが1898年に行った研究がきっかけでした。当時スポーツマンだった彼は、アメリカで行われていたサイクリングの大会の結果の分析をし、時計と競争するよりも、競争相手と競争をした方が選手のスピードが速くなっていることを発見しました。この発見から、彼は競争相手の存在がある方が単独でタスク行うよりも個人のパフォーマンスを向上させるという仮設を立て、それを科学的に示す為に、研究室で実験を行いました。実験方法は、吊橋を引くというシンプルなタスクを1人で行う場合と競争相手と行う場合を比較をするという内容でした。実験の結果、ほとんどの被験者において競争相手の存在は個人のパフォーマンスを向上させていたのですが、実は少なからず競争相手の存在により「パフォーマンスが下がった群」と「あまり影響を受けなかった群」も認められました。 この様な現象をより明確に解明する為に、その後も研究は発達していきました。特にロバート・ザイアンスは1965年に、他者が単に存在すること(指示をしたり、意見を述べたりするのではなく、ただ単に存在すること)がどの様に個人に有益、または無益な影響を与えているのかを記した論文を発表しました。論文によると、他者の単なる存在は、もしその個人にとって簡単であったり慣れているタスクであれば個人のパフォーマンスを向上させ、一方でもしその個人にとって難しかったり慣れていないタスクであれば個人のパフォーマンスを減少させるとしています。
ザイアンスの理論を参考にした社会的促進のメカニズム
このメカニズムについてザイアンスは、以下の様に説明しています。個人にとって他者の単なる存在は、「刺激」として捉えられます。もしその個人にとって簡単であったり慣れているタスクであればこの「刺激」はポジティブに働くため個人のパフォーマンスは向上し、一方でその個人にとって難しかったり慣れていないタスクであればこの「刺激」はネガティブに働くため個人のパフォーマンスは減少します。 どうやら個人とタスクの関係性が「社会的促進」の鍵になっているようです。マネージメントの立場にいる方にとって、チームにおける個人のパフォーマンスを引き出す為に、個人とタスクの関係性は常に考えていきたいポイントですね

「社会的手抜き」

では、次に「社会的手抜き」について説明したいと思います。20世紀初頭のフランスで、農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンは綱引き、荷車を引くなどの集団作業で1人あたりのパフォーマンスと集団で行った時のパフォーマンスを数値化しました。実験の結果、1人の時の力の量を100%とした場合、2人の場合は93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では56%、8人では49%と、集団が大きくなるにつれて1人あたりの力の量は低下していました。どうやらチームの人数は単に多ければ良いという訳ではなさそうですね。今となっては当たり前かもしれませんが、当時リンゲルマンの実験結果は大きなインパクトを与え、その後の研究の発展に大きく貢献しました。 リンゲルマンの研究以来、様々な研究が行われてきました。そしてこれまでの研究結果によると、「社会的手抜き」の最も大きな要因は個人における動機づけの低下だと指摘されています。では、個人における動機づけは集団の中でどの様に形成されているのでしょうか?ここで、集団における個人の動機づけの仕組みを分かりやすく説明している「集合的努力モデル(Collective Effort Model: Karau&Williams, 1993, 2001)」をご紹介します。 このモデルは、個人のパフォーマンスと集団パフォーマンスがどの様に連動しているかを研究した上で、集団における個人の動機づけをモデル化したものです。
「集合的努力モデル」のメカニズム
「集合的努力モデル」によると、個人の動機づけは以下の3つの要素の組み合わせで規定されるとしています; ・要素1「期待」:努力が個人パフォーマンスをもたらすか ・要素2「道具性」:個人パフォーマンスが派生的な結果(EG.賞賛や外的報酬)を導くための手段として有効か ・要素3「誘意性」:得られるすべての結果に価値があるか これらの3つの項目に関する個人の認知の掛け合わせで、個人の動機づけが決められるとしています。 そして、3つの要素の中でも「道具性」の要因を更に3つの項目に拡張しています。 ・道具性:個人パフォーマンスが派生的な結果(EG.賞賛や外的報酬)を導くための手段として有効か (a). 個人のパフォーマンスと集団のパフォーマンスの随伴性 (b). 集団パフォーマンスと集団結果の随伴性 (c). 集団結果と個人結果の随伴性 つまり、道具性の高い個人というのは、(a)~(c)の項目を強く認知している個人を指します。簡単にまとめると、「社会的手抜き」を軽減する為には、個人の動機づけを高めることが重要であり、その為には集団において個人が「努力をすれば自分のパフォーマンスを向上できる」「自分のパフォーマンスが結果をもたらす為に有効である」「ここから得られるすべての結果に価値がある」と認知することが重要であるということです。そして中でも、「自分のパフォーマンスが結果をもたらす為に有効である」と認知する為には、「自分のパフォーマンスとチームのパフォーマンスは随伴している」「チームのパフォーマンスとチームの結果は随伴している」「チームの結果と自分の結果は随伴している」と認知できることが重要ということです。
画像引用:https://myofficein.ph/tips-to-have-top-quality-teamwork/
さて、この様な「社会的手抜き」に関する研究結果を踏まえて、チームをマネージメントする立場にいる方がどの様な言動を行えばチームに属する個人の動機づけが高くなるのでしょうか?ここで一旦マネージメントをしているという立場を離れて、チームに所属する一員になったつもりで考えてみましょう。チームに所属する個人は、全体のパフォーマンスのことよりも、自分のパフォーマンスの良し悪しや、ライバルと比べた時の自分のパフォーマンスといった部分的な項目に執着しがちです。これは無意識に、仕事をチームプレーでやっているという感覚よりも個人プレーでやっているという感覚を強めます。そして、先程の道具性を構成する(a)~(c)の項目の認知を下げます。もし会社で有能なのにチームでパフォーマンスが発揮できない、という方がいらっしゃったら、これが原因かもしれません。では、この様な現状を踏まえ、マネージメントの立場にいる方はどのような介入ができるでしょうか?個人に対して、仕事がチームプレーであることを認知させることが有効なのではないでしょうか?具体的には、「個人のパフォーマンスとチームのパフォーマンスには関連している」「チームのパフォーマンスとチームの結果は関連している」「チームの結果と自分の結果は関連している」ということを普段のコミュニケーションで明確に伝えることが有効になるのではないでしょうか?つまり、個人が何かチームに貢献する様な言動をした時に、(1).チームのパフォーマンス、(2).チームの結果、(3).個人の望む結果の3点の関係性を明確にしながらフィードバックするということです。例えば、「○○さんの成果は、チームに○○として貢献するよね、ありがとう!」や「チームの○○という成果は、○○さんの期待している○○をもたらすよね!」といった会話を自然に行ったり、個人が行ったチームに貢献する成果を数値化したりといったことです。他にも多くの対策が考えられると思います。
「集合的努力モデル」から考える「社会的手抜き」の仕組み

まとめ

  • この記事では、組織をマネージメントする際に使える心理学の話題として、社会心理学から「社会的促進」「社会的手抜き」という2つのトピックを紹介しました。
  • 「社会的促進」とは、他者の存在が行為を促進したり、抑制したりすることを指します。元は、ノーマン・トリプレットがアメリカのサイクリングの大会で、時計と競争するよりも競争相手と競争をした方が選手のスピードが速くなっていることを発見したことが研究の由来でした。
  • 「社会的促進」の研究によると、個人にとって簡単であったり慣れているタスクであれば他者の存在はポジティブに働くため個人のパフォーマンスは向上し、一方で個人にとって難しかったり慣れていないタスクであれば他者の存在はネガティブに働くため個人のパフォーマンスは減少するとしています。この見解から、個人とタスクの関係性が「社会的促進」の鍵になっていると考えられます。
  • 一方で「社会的手抜き」とは、集団で共同作業を行う時に一人当たりの課題遂行量が人数の増加に伴って低下する現象を指します。
  • 「社会的手抜き」をより深く理解する為に、「集合的努力モデル」を紹介し、集団における個人の動機づけについて説明しました。「社会的手抜き」を軽減する為には個人の動機づけを高めることが重要であり、その為には個人が自分のパフォーマンスと集団のパフォーマンスや結果の関連性を認知できることが重要だということが分かりました。
  • チームをマネージメントされる立場にいる方は、個人のパフォーマンスと集団のパフォーマンスや結果の関連性を意識的にフィードバックすることで、「社会的手抜き」を軽減できるのではないでしょうか?

引用

(1). Triplett, N. (1898) “The dynamogenic factors in pacemaking and competition”, American Journal of Psychology, 9: 507-33. (2). Zajonc, R.B. (1965) “Social facilitation”, Science, 149: 269-74. (3). Ringelman, M. (1913) “Recherches sur les moteurs animés: travail de l’hommé, Annales de l’Institut National Agronomique, 12: 1-40. (4). Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65, 681-706. (5). Karau, S. J., & Williams, K. D. (2001). Understanding individual motivation in groups: The collective effort model. In M.E. Turner (Ed.), Groups at work: Theory and research (pp. 113-141). Mahwah, NJ: Lawrence Errlbaum Associates.

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